人の命をつなぐことができるのは、医師だけではない。

 1970年代、愛知県春日井市。ビニール樹脂を加工・製造する町工場を営んでいた筒井宣政さんはある時、生まれつき心臓疾患のある娘・佳美さん(当時9歳)の余命が10年であると宣告される。

 当時の日本は心臓移植の議論が停滞していたため、米国や英国の病院にも助けを求めたが、ことごとく「手術はできない」と断られてしまう。だが、宣政さんは諦めなかった。佳美さんを救うため、医療知識はゼロでありながら「人工心臓」を自ら開発することを決心するのである。

 それ以降、何度も上京し、研究者たちに頭を下げ、莫大な私費を投じて開発を進めた。だが、数年後に資金が底をつき、無念にも人工心臓の開発は断念せざるを得なくなる。

 ただ、それだけでは終わらなかった。宣政さんは佳美さんを救えない無力さに絶望しながらも、人工心臓の開発で得た知識と技術の全てを注ぎ、心臓のポンプ機能を補助する「IABPバルーンカテーテル」を開発したのだ。

 当時、IABPバルーンカテーテルは米国製のものしか流通しておらず、日本人の血管や身体のつくりに合っていないことが原因とされる事故が頻発していた。それを知った宣政さんは、カテーテルでは佳美さんの命を救えないことも分かっていたが、多くの人を救うべく、国産のIABPバルーンカテーテルの開発に尽力した。宣政さんが完成させたカテーテルは今に至るまで、日本のみならず、世界で17万人もの命を救い続けている──。

 この実話を基にした映画『ディア・ファミリー』が6月14日に公開された。筒井宣政さんがモデルの坪井宣政役を演じたのは俳優・大泉洋さん。大泉さんはこの役をオファーされた当初、一度は出演をためらったと話す。

大泉 洋(Yo Oizumi)俳優、タレント 1973年、北海道生まれ。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。大学在学中より北海道テレビ制作のバラエティー番組「水曜どうでしょう」に出演。その後、数多くの映画やテレビ、舞台作品で活躍。(写真:中村 治)

 「僕にも娘がいるので、娘を亡くす父親の役をやるのは辛いなと思いました。ただ、『私の命はもういいから、たくさんの命を救ってほしい』という佳美さんのセリフを読み、どうしたらこんな言葉が出るんだろうと知りたくなったんです。そして、佳美さんを救うことはできなかったけれど、それでも娘の意思を継ぎ、『もっと多くの人を助ける』という新しい夢を家族で実現していく……。その姿に感動しましたし、勇気づけられました。私もこの映画を通じて誰かを勇気づけられたらと思い、出演を決意しました」