ロシアのウクライナ侵略が続く中で、人々の注目を集めなくなった地域がある。インドと中国の国境地域だ。しかし、実際には、インドと中国の軍事的対峙は、2020年に両軍が衝突し、インド側だけで100人近い死傷者を出して以降、さらに悪化しつつある。

2020年の中国とインドの軍事的衝突から2年経った今も国境地帯は緊張状態が続く(20年9月、AP/アフロ)

 だから、その印中国境に、今月、米国の太平洋陸軍司令官チャールズ・フリン大将が訪問し、地域の情勢が警戒を要するレベルであることを発表したことは、当然の結果といえる。本稿では、今、インドと中国の国境地帯がどうなっているのか概観する。

2020年以降、緊張を解かない中国

 現在の印中国境の情勢が始まったのは、20年春のことだ。中国軍が印中国境の複数個所で5000人規模の侵入事件を仕掛け、まさに2年前の6月、インド軍と衝突して死傷者を出した。場所はインドのラダク地方のガルワン渓谷で、「ガルワン事件」と呼ばれている。

 問題はその後だ。印中両軍は、4000キロメートルの国境全域で大規模な軍事展開を行った。特に中国は兵器を、中国各地から移動させた。その中には、J-20ステルス戦闘機や、S-400地対空ミサイルといった最新兵器が含まれていた。

 このような軍事的対峙は21年2月に、両国が合意し、中国軍が一部地域、パンゴン湖から200両の戦車を引き上げたことで、緊張緩和に至っていた。8月にも別の地域からも撤退した。しかし、中国は、それ以上の撤退はしなかったのである。

 今月の時点で、衝突があったラダク地方周辺だけで、両軍合わせ5万〜6万人が配備され、対峙している。また、中国は、それらの部隊が活動しやすいよう、大規模な工事を継続しているのである。

 その一つは、200両の戦車が撤退したパンゴン湖周辺だ。中国はパンゴン湖に2つの橋を架け、より大きな部隊を展開させるためのインフラ基盤を整えている。

 4000キロメートルの印中国境全体では、少なく見積もって100カ所、多ければ600カ所の、一種の村のようなものを建設している。インド軍は、これらの村を、印中国境に配備された中国軍が、時々、家族に会うための施設とみている。中国軍は、インド側への侵入から撤退するどころか、より長期に駐留し、徐々にインド側への侵入を行うための施設を整えつつあるのだ。

 このような行動は、中国が、東シナ海や南シナ海などで行ってきた領土拡大と、共通性がある。施設を作り、徐々に領土を拡大させようとするのである。

2020年春に報道された中国軍の動き (出所)報道を基に筆者作成