「イオン、絶対反対」貫いた男の20年 孫の送迎でも入らぬ駐車場 地元で圧倒的支持、今やデートスポット

「イオン、絶対反対」貫いた男の20年 孫の送迎でも入らぬ駐車場 地元で圧倒的支持、今やデートスポット

今や全国どこにでもあるイオン(福井県は除く)。私の赴任している宮崎市には、2005年5月に大型の「イオンモール宮崎」がオープンしました。昨年3月のリニューアルを経て、年間約1千万人を超える人を集めるほどの人気です。若者や子連れの家族を中心にいまや無くてはならない場所ですが、開業前は反対運動も起きました。「出店すれば中心商店街は終わりを迎える」。断固反対を貫いた男性に当時を振り返ってもらいました。(朝日新聞宮崎総局・松本真弥)

こぞって出かけるイオン

私も映画館やユニクロ、無印良品を目当てに、車でイオンモール宮崎(以下、イオン)に行くことがあります。自宅から車でおよそ10分くらい。

道路も(時間によっては)比較的混みますが、駐車場が特に混雑します。約4300台収容できるそうですが、休日の日中は建物に隣接した駐車場や立体駐車場での駐車はほぼ不可能で、私は迷わず道路を挟んだ臨時駐車場に入ります。

「イオンなくなったら行くとこないっちゃけん」「ただでさえ遊び場ないのにマジかよ……」

2018年2月、リニューアルオープン直前のイオンで、ぼや騒ぎがありました。その際、SNSには切実なつぶやきが並びました。

宮崎の友人たちは「イオンデート」を重ね、「仕事で使うジャケット」や「同窓会用のおしゃれ着」を求めてイオンに出かけます。他の地方と比べてもイオンの存在は県民にとって大きく、その定着ぶりを感じます。

圧倒的なイオン支持の裏で、かつて反対運動を繰り広げた人たちの目に、今のイオンの姿はどう映るのでしょうか。話を聞くことで、まちの移り変わりや、まちの商店街を守るために何が必要なのか見えてくるのではと考え、取材を始めました。


敷地に一度も入らず

話を聞いたのは、宮崎市中心部の商店主らでつくる「まちづくり協議会」の会長だった日高耕平さん(71)です。

郊外と宮崎市中心部付近を結ぶ「一ツ葉有料道路」を降りた先が、県道11号。イオン付近は片側2車線になっています。県道11号を曲がった車がイオンの駐車場に続々と入っていきます。日高さんは植え込みの外から、少し険しい表情で巨大な建物を見つめました。イオンが開業してから、一度も敷地内に入ったことはありません。孫を車で送迎する際も駐車場に入らないほど徹底しています。

日高さんによると、開発許可の権限を持つ津村重光・宮崎市長(当時)は当初、出店に否定的な様子に見えたといいます。

「反対せんでいいと?」

イオン出店のうわさを聞き危機感を持った日高さんは、旧知だった津村市長を訪ねた時のことを強く覚えていました。

「しげみっちゃんは僕に『反対せんでいいと? 大変なことになるよ』と言った。イオンは認められないと思っていたのに」

イオンの開発計画が表面化したのは2001年。そこから出店を巡る議論が巻き起こりました。

反対派は日高さんら商店主らに加え、宮崎市周辺の13市町村なども団体を組織します。一方、賛成派の地権者らは「建設賛成」の約6万4千人分の署名を集めていきました。

市民フォーラムでは互いの主張を直接ぶつけあいました。反対派の代表として日高さんが「雇用が奪われ、まちの商店街は終わりを迎える」と訴えると、賛成派は「市の発展の起爆剤になる」と主張。曲折を経ましたが、2002年7月、津村市長は出店を認めました。

生まれ育った商店街の衰退

当時、イオンの申請を受けて、開発許可の答申を出した市開発審査会の中澤隆雄会長(73)は「まちが沈滞する中で、市民はイオン出店を歓迎していた」と振り返ります。

日高さんらは開発許可の取り消しを求め、市を提訴し最後まで抵抗しましたが、出店を止められませんでした。

イオンから約3キロ離れた市中心部の若草通商店街。日高さんはここで生まれ育ち、かつては自身の店もありました。「角には食堂があって、そこは果物屋。シャッターが閉じた場所は服屋さんだった」

市によると、中心市街地の歩行者通行量は、イオンが開業する前の9万1122人(2003年度)から5万5543人(2017年度)にまで減りました。衣料品を扱う店が多かったようですが、今では企業のオフィスも少なくありません。

商店街の中ほど、80年以上続く帽子店「かいハット」を訪ねました。3代目の甲斐輝一さん(47)はイオンの開業時、商店街から5店舗ほどが移転したことに衝撃を受けたといいます。「自分が知る商店街が姿を変えていくのは寂しかった」と話します。

新たな大型施設の建設も進む

若草通商店街から歩いて10分ほどのJR宮崎駅。駅西口では現在、2020年開業予定の複合商業施設「アミュプラザ」の開発計画が進んでいます。JR九州とともに開発を手がける宮崎交通の菊池克頼会長(当時は社長)は、記者会見で「駅からまちへとにぎわいを広げる」とし、市中心部の商店街を含め周辺は活性化すると語りました。

現在、県商店街振興組合連合会の理事長を務める日高さんも期待を込めます。「イオンに流れた人の流れを変えられるかもしれない。このタイミングを好機とみて、商店街としても温かみのある接客など魅力を高めていきたい」

ただ、懸念もあります。「消費者のパイは増えるわけではない。イオン、アミュプラザ、商店街で客を取り合い、共倒れになるかもしれない」

時代とともに変わりゆくまちを、期待と不安を胸に見守り続けています。

どちらも必要な存在

私の出身である福岡県でも、前任地の埼玉県でも頻繁に利用したなじみのチェーン店が並ぶイオン。地元ならではの唯一無二のものに出会え、路地裏では新しいお店を開拓出来る商店街。

私にとってはどちらも無くてはならない存在です。同じように考える人も少なくないのではないでしょうか。

ただ、行きやすさを考えるとイオンに分があるようです。巨大な無料駐車場をもつイオンに対して、商店街近くは有料のコインパーキング。物価が安い宮崎といえど、多くの場合週末に3時間もとめれば500円以上はかかります。イオン優勢の理由は一つではないと思いますが、「車社会」の宮崎ではこの違いが行き先を決めることにもつながるように感じます。

「対等な競争のため、せめて駐車場の整備を」。日高さんは市と対立した際、こんな要求もしたそうですが、結局かないませんでした。

それでも、市は現在、宮崎駅から商店街のある市街地への人の流れを増やそうと、実証実験で10人乗りの小型電気自動車の導入を予定しています。徒歩10分以上かかる駅と商店街の距離を縮め、さらに駅前のアミュプラザとつなげる取り組みです。

これで商店街が一気に再生するということは難しいかもしれませんが、商店街とイオンの共存への第一歩となればと、期待したいと思います。


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