「皆さんの会社と同じように、新入社員にはお重の詰め方を伝授しました」。そんな企業のSNS投稿がユーザーを驚かせました。「習ったことないです」「伝授してほしい」というコメントが寄せられた〝新人研修〟。いったいなぜ行われているのでしょうか?(withnews編集部・河原夏季)

「同じではないのよ」

かまぼこやはんぺんなどの練りものを製造する紀文食品が、4月26日にX(旧Twitter)に投稿した2枚の写真。

「皆さんの会社と同じように、新入社員にはお重の詰め方を伝授しました」という言葉とともに、9個のお重と、それらを手にする新入社員の姿があります。

投稿には、SNSを積極活用する企業アカウントなどから「同じではないのよ」「やってませんがな」「極めてレアなこと」といったツッコミが寄せられ、「いいね」は2万を超えています。

紀文食品に聞きました

数々のツッコミからも、この新入社員研修は紀文食品ならではということが分かります。いったい、いつから何のために行っている研修なのでしょうか。

紀文食品の担当者に聞くと、「元々新入社員研修の一つとして、おいしさや和食について座学で学んだ後、実際に調理実習を行っています。その中の項目として『お重詰め』があります」と話してくれました。

新入社員研修での調理実習は毎年恒例ですが、「お重の詰め方」が採り入れられたのは2023年とのこと。

2022年に開いた若手営業担当者向けの講習が好評だったため、約2カ月にわたる新入社員研修の中でも実施することになったといいます。

「お重詰めは難しいと思われがちですが、ポイントをおさえれば誰でも詰められるということを自身で実践して学び、もっとおせちを身近に感じてもらいたいと思っています」

調理実習では「かまぼこ板の外し方」も伝授しています。同社の社員にとっては、それも「基本知識」の一つ。「包丁の背を使うといいよ」とアドバイスするといいます。

しかし、「いつから『かまぼこ板の外し方』を教えているのかは分かりません。あくまでも弊社としては常識なので…(笑)」と話します。

お重の詰め方は?

今年のお重詰めでは、事前に準備したものを含め、黒豆や田作り、祝海老といった約15品のおせち料理を用意しました。かまぼこと、実習で社員自身が作ったはんぺんの伊達巻の2品と、用意した中から自由に3品を選び、5点盛りのお重詰めをしたそうです。

詰め方は二通り。「田の字」のように十字に仕切って1区画だけ2品にする詰め方と、真ん中に1品盛り付けた後に四隅を埋める詰め方でした。

実習の担当者は「何をどこに詰めるか決めるのには多少時間がかかりましたが、詰め始めたら15分くらいであっという間に完成させていました。基本的なものから洋風のものまで用意しましたが、意外と伝統的なおせちを好む傾向があるように感じました」と話します。

講習を受けた新入社員たちは「普段やらないこと、かつ、各々のオリジナルの詰め方ということもあって、とても楽しそうに取り組んでいた」そうです。

「正月でしか食べないおせち料理をこの時期に食べられるという特別感がうれしかったようで、残ったおせちを幸せそうに食べていました」

料理に苦手意識がある社員も、調理実習を通して「楽しかった!」「家でもやってみる!」と話していたといいます。実習に同席したSNSの担当者は、「食に関わるものとして、『料理って楽しい』と思ってもらえたら」と期待します。

「おせちの季節でなくとも…」

調理実習のほかにも、工場での製造研修や営業研修、物流研修など「商品がお客様に届くまでの一連の流れを体感しながら学べる」研修をしているそうです。

SNSで話題となったことについて、「投稿をきっかけに『紀文の会社ではこんなことをやっているんだ!』と知っていただくことはもちろん、『お重詰めって伝統的だよね』など、おせちの季節でなくともおせちを通じて正月の文化や伝統について意識していただければ幸いです!」と話します。

「新入社員の皆さんにも、話題になったことでより一層、伝統や会社の楽しさ、仕事の楽しさを学んでいただければと思います」

今後は、「お重詰め」も毎年恒例で伝授していく予定だそうです。