雨の日にビニール傘を盗まれたーー。知人の落胆ぶりを見て考案された「究極の盗難防止グッズ」が、SNSで話題です。盗むどころか、手を触れることすらためらわせるインパクト。人間の心理を巧みに利用したアイデアについて、制作者に話を聞きました。
「見つけたら変な声が出る」
Xで話題になったのは、前田(@chin25454)さんが投稿した、ビニール傘の画像です。写っている傘自体は何の変哲もないビニール傘ですが、その柄(え)を見てびっくり。
そこには、太った〝ナメクジ〟がくっついているのです。
実は粘土細工なのですが、そのリアルな見た目に、「見つけたら変な声が出る」「傘立ての周りで阿鼻叫喚」「これは持っていかないわ笑」「究極の防犯システム」「ほしい」などとうなるコメントがつき、反響を呼びました。
「なんとか、やめさせることはできないか」
前田さんに話を聞きました。この粘土細工を作ろうと思い立ったのは、昨年12月頃のこと。
雨の日に、飲食店を利用していた前田さんの知人が、傘置き場に置いておいた自分のビニール傘がなくなって、代わりに汚いビニール傘が残されているのを見て、落胆していたのがきっかけでした。
意図的な「すり替え」だったとしたら、なんてひどい。「こういう行為を、なんとかやめさせることはできないか」と考えました。
「カタツムリ」ではダメ
ちまたでは、傘の取り間違えを防ぐための「チャーム」をつけるなど、さまざまな工夫が凝らされていますが、前田さんが作りたかったのは、触る気持ちすら折る、よりインパクトの強いものでした。考えた条件は「雨の日や雨上がりに見かけるもので、傘についていても不思議ではない」もの、「多くの人が嫌悪感を抱く」もの、「触ると危険」だと認識されているものーー。
「カタツムリ」でもよかったのでは? と質問しましたが、「カタツムリだと、殻をつかんで、どかそうと思えてしまうかもしれません」。ほかの害虫だと「人が近づくと逃げる」ため、動かないチャームは偽物だとばれてしまう恐れがありました。
その点、ナメクジなら、粘着質で動かなくても違和感がなく、寄生虫がいて危険なので触る気にもなりません。「これらの観点からナメクジを選出しました」
雨の日のコンビニで〝試験〟
粘土で形を作って乾燥させ、絵の具で着色をして、コーティングし、ぬめり感を出して、2〜3日で完成しました。その名は「ビニ傘マモルくん」。
繰り返し使える粘着テープを使っており、脱着可能。試験的に雨の日に近所のコンビニの傘立てに置いておきましたが、マモルくんの効果があったのか、「全く盗まれませんでした」。
メイクアップアーティスト兼特殊メイクの「変化師オリ」さん(@ori_cos718)がイベントなどに出店する「変幻堂」に置いてもらい、友人で書家の蟒(うわばみ)まいこさん(@maikouwabami)に、ぬめり感のある商品名を書いてもらって、一つ1500円(税込)で売ったところ、完売したそうです。
「なぜか女子高生に大人気」
SNSで話題になった後、テレビのクイズ番組に出たり、ガチャガチャの商品化の話が持ちかけられたりと、注目を浴びる〝ビニ傘マモルくん〟。実際に、購入して傘に付けている人が「なぜか女子高生に大人気だった」とXで投稿しているなど、予想外の展開になっているとのことです。
現在、手作業で再度作っている最中です。粘土細工の性質上、傘の持ち手に合わせて形を選ぶ方がフィットするそうで、現物を見てから決められるよう、ネット通販ではなく、イベントなどの店頭販売のみとする予定です。