事件現場にもいく“写真記者”は野球場で何をフォーカスするのか?/写真記者というお仕事 後編

【写真記者というお仕事 後編】事件現場にもいく“写真記者”は野球場で何をフォーカスするのか?
 プロ野球選手になれなくてもプロ野球に関わりたい。そんな思いを叶える仕事は、見回してみると実はたくさんある。週刊野球太郎ではそんな「プロ野球に関わるお仕事」に携わる人たちを直撃。第2回となる今回は報道現場の最前線に立つ新聞社のカメラマン、いわば「写真記者」のAさんとBさんが登場。

 20代後半の2人は大学時代の先輩・後輩で、大学ではスポーツ文化を変革させたい」という志で発足したサークルに所属しながら報道の道を目指していたという。

 前回の前編では、写真記者になった経緯、写真記者のあり方、事件や政治にまつわる写真とスタジアムで撮る野球写真の違い、投手、打者、アウトカウントなど様々なシチュエーションに応じて打球の方向や展開を読んだ上で頭を使って撮らなければならない野球写真の難しさなどを聞いた。

 また、選手のキャラクターを伝える写真を撮るためには一般の記者と同じように被写体のことを、ここに至る背景やドラマを踏まえて知っていなければならない心構えを話してくれた。

 この後編では具体的な選手名を挙げながら撮影のコツ、試合展開を読んだうえでの備え、印象深い1枚などについて聞く。

◎投げて、打って、守って、走って……一瞬のうちに試合の分かれ目に備える

 野球写真を撮るには、アウトカウント、ボールカウント、配球、投手と打者の組み合わせから打球の方向や、守備陣、走者も含めて選手たちが繰り出すプレー、ポーズなどを予測し、収めるべき1枚に向けて備えなければならない。

 例えば2死満塁では投手を中心に追うか、打者を中心に追うかを定めるかを判断。そのうえで打者、あるいは投手の決めのカットを写し、そこから打者走者、塁上の走者、守備、得点シーンなどから「絵になる場面や表情」を、一連の流れのなかで瞬時に判断しながら追うことになる。

 2人は「野球の写真はとにかく頭を使うし、やらなければならないことが多いので疲れる」と笑うが……投手が球をリリースしてから、打者が打ち、打球が飛ぶまでは一瞬のこと。しかもリリースからの腕の振り下ろし、打者のスイングを細かく目測することは難しい。

 そんな状況で、打者本人ですら予測外の方向に打球が飛ぶこともある。撮影の流れを聞くと(できるかは別として)シンプルだが、実際にはどう対応しているのだろう。

Aさん カメラのファインダーからは視野が限られているので、覗いたまま打球を追うのは難しいです。だからバッターを撮ったあと、一瞬ファインダーから目を離して、打球の方向を確認してから守備を収めるようにしています。

Bさん あと、バッターの目線である程度、打球の方向や距離はわかりますね。右方向に放ったときに、左の方を見ることはありませんから。

Aさん そうやって目測で飛距離を確認して、ギリギリでスタンドに入るかもしれないというときに、もしイチロー選手(元マリナーズほか)のような名手が守っていたら、スーパーキャッチをする可能性があるので、それに備える必要も出てきます。

 この撮るべき守備への備えには、レーザービームや守りに難のある選手のエラーなども想定の対象となる。たとえば均衡した投手戦で、勝者チームの外野手がレーザービームで失点を防いだならば、それは勝負の分かれ目、つまり「試合を決めたプレー」となるからだ。当然、カメラに収めておかねばならない。

Bさん 去年の日本シリーズだと、甲斐拓也選手(ソフトバンク)が広島の走者を刺しまくった送球、甲斐キャノンも勝負の分かれ目の一つですよね。もし「ここぞ」という場面での二塁送球を撮りそこねたら上司に怒られます……。

 となると、ファインダーを構えながら、広島・緒方孝市監督が盗塁のサインを出すかどうかも読まなければならなくなる。そして、守備のまずい外野手はさらにやっかいだと言う。

Aさん 二塁に俊足の走者がいて、守備の下手な外野手のところに打球が飛べば、普通は打者の動作や走者のホームインの場面を追いますが、もしかすると、とんでもないエラーをしてニュースになるかもしれなくて(笑)。

Bさん 逆に肩の弱い選手がまさかの好返球で、走者をホームで刺したら、それもニュースになりますし(笑)。

 そのため、2人は万が一の事態も頭に入れながら、打者が打った瞬間に全体を見渡して、抑えるべきものの優先順位をつけているという。日本シリーズなどの大舞台でもない限り、通常、AさんもBさんも1人で撮影に臨んでいる。ハプニングは野球ファンの大好物だが、それを名場面、珍場面として「いい写真」にするために、こんな苦労が背後にあるのだ。

◎うつむく大谷翔平に、ぶれない内川聖一。インパクトと顔の両撮りは?

 ファインダーを覗いて「選手の瞬間」に迫る写真記者。選手の表情や特徴をより把握できるのはもちろんだが、「意外に、すごく汗が飛んでいるんだなあ」といった気づきもあったという。

 ここから話題は大谷翔平(エンゼルス)に。何かやってくれそうな大谷のワクワク感、一瞬を切り取る写真だからわかる投手・大谷の並外れた腕のしなり、打者・大谷のインパクトをとらえさせないスイングスピードの速さなどを話しているうちに「そういえば、そもそも大谷のインパクトの瞬間がメディアで使われているのを、あまり見ないかも?」となった。その種明かしとは?

Bさん インパクトの写真は大事なんですけど、大谷選手はその瞬間に下を向いている。だから顔も写っている写真となると、打ち終わって顔を上げているカットが多くなるんです。

 選手を例にして「インパクトの瞬間」と写真の関係についての話が続く。

Aさん フォームはもちろんですが、インパクトの瞬間は打者によってまったく違うんです。内川聖一選手(ソフトバンク)は上半身がぶれないので、顔もインパクトの瞬間も両方撮れます。逆に筒香嘉智選手(DeNA)は沈むフォーム。だからインパクトをとらえられても、顔は写りません。

Bさん で、松田宣浩選手(ソフトバンク)はインパクトの瞬間にバットを放っているイメージ(笑)。

 カメラマンがスイング中の打者を写す場合は、基本的にはインパクトの瞬間を狙う。ただ、それが絵になる選手と、ならない選手がいる。そのために選ばれる瞬間が違ってくるのだ。

 なお、困るのは2000安打などの記念の一打。「バットにボールが当たっている瞬間の写真はないの?」と求められがちだという。たとえ顔が写っていなくても……。記念の一打を放つ瞬間、もし打者の顔が見えない写真を目にしたらならば、背後にはそんな事情が背景にある。そう知っているだけで、野球の見方が少し広がるのではないだろうか。カメラがとらえた瞬間には選手の個性を伝えるたくさんのことが詰まっている。

◎右投手なら顔の見える一塁側、それとも三塁側から背中越しに?

 投手のフォームを写す決めカットはどうだろう。背中越しだと絵にならない場合が多いので、基本的には顔が写るように右ピッチャーは三塁側、左ピッチャーは一塁側から撮ると、「弓引き(テークバック)」の瞬間から投げ下ろしの流れがいい具合に写せると2人は教えてくれた。ただ、ここでも打者のインパクトと同じく、「ある瞬間に目をつむっているかどうか」の問題が……。

Aさん 弓引きのときに目をつむっている選手がいるんです。あと、野村祐輔投手(広島)はリリースの瞬間に目をつむる。しかも顔は一塁側を向いているので、一塁側から撮った方が決まることが多いです。だから、必ずしも右投手を三塁側から撮ればいい写真になるというわけでもなくて。

 このようにケースバイケースで、背中越し撮った方がポーズの決まる選手、力感がより伝わる選手もいるのだ。

 「よく見ると、みんなモーション中に不思議な格好をしていますよね」と言うBさんには、今の新聞社に入ってから、野球の写真を撮るにあたり先輩にアドバイスされた言葉がある。

Bさん アドバイスされたのは、初めて見る投手の場合は、1回目の投球のときに足を上げるところから投げ終わるまでシャッターを押して、どういう特徴があるのか、一コマずつよく見て理解するのが大切だということでした。

 場数を踏み、注意深く特徴を探り、頭を使い、目的を持って押してきたシャッターの数だけ、選手の個性をとらえることができる。見るものに伝えることができる。それが「いい写真」という答えにつながるのだろう。

◎経験と試行錯誤を生かした快心の1枚

 最後に思い出の1枚、快心の1枚を聞いてみた。

 Aさんが挙げた1枚には、ここまで語ってくれた経験と試行錯誤が生きていた。その写真は、現役晩年にさしかかった頃の山本昌(元中日)をとらえた1枚だ。

 40代後半になっても、ここぞの場面で力強い投球を続ける山本昌。Aさんは山本昌を写すうちに、背中越し(三塁側)から撮ると、より力感がこもるフォームを写せるとわかっていた。山本昌は投げる瞬間に舌を出すこともわかっていた。Aさんは三塁側からカメラを構え、納得のいく1枚を収めた。

 Bさんが挙げたのは日米野球での1枚。攻守交代のイニング間に登場する審判団になりきったパフォーマーが披露するダンスを楽しそうにスマホで写す女の子たちの写真だ。女の子の多くは「本物の審判が突然踊りだした!」と沸いている。Bさんはそんな風景を見て、「これがアメリカの野球のエンターテインメントなんだ」と実感したと言う。

 写真記者が撮る1枚の写真。そこに写された瞬間には選手はもちろん、「野球に関わるお仕事」に就く人々のドラマも詰まっている。ニュースが溢れすぎる時代に、そんな目で写真記者が撮った写真を見てほしい。

取材・文=山本貴政(やまもと・たかまさ)


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