地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」の視察と自民党の政治刷新車座対話への出席のため来県した岸田文雄首相は19日、山形市内で山形新聞の単独インタビューに応じた。地方創生の実現には、若い世代の働く場や学びの場、子育てしやすい環境の整備が必要との認識を示し、「新しい資本主義」「デジタル田園都市国家構想」を進め「国内投資をきっかけに雇用や地域活性化を実現する」と強調した。

 地方の経済振興に関し、大企業だけでなく中小企業でも高水準の賃上げが実現している春季労使交渉に触れ、「近年にない賃上げの状況だ。変化の兆しを来年につなげたい」とし、引き続き中小・零細企業の支援に注力すると述べた。

 来夏の参院選県選挙区への候補者擁立について「地元では前回立候補した大内理加氏を推す意向が強い」と話し、知事選の対応は「何も決まっていない」と答えた。

 自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、政治資金規正法改正案を単独提出し、22日に衆院の政治改革特別委員会で審議入りする。岸田首相は「実効性のある再発防止策、改革案を取りまとめた。公明党と力を合わせ、野党とも議論し、今国会で改正を実現したい」と語った。

規正法「今国会で改正」・政治不信招き、謙虚に反省
 本紙の単独取材に応じた岸田文雄首相の一問一答の主な内容は次の通り。

 ―自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件は党と政府、政治に対する信頼を失墜させた。政治資金規正法の改正にどのように取り組むのか。

 「自民党は政治資金規正法の改正に関し▽政治家の責任強化▽外部監査強化▽政策活動費の透明性の向上▽パーティー券購入者の公開基準額の引き下げ―などの内容を示した。方向性は公明党とも一致しており、今国会で改正を実現したい。引き続き公明党とも力を合わせ、野党の意見も聞きながら、特別委員会での議論に臨む」

 ―問題が起きた一番の理由をどう考えるか。

 「根本は政治資金への気の緩みだ。政治不信を招いたことを、謙虚に反省し、危機感を持たなければならない」

 ―地方創生の取り組みが始まり10年。東京一極集中は是正されず、人口減少は加速している。「デジタル田園都市国家構想総合戦略」の進捗(しんちょく)、地方の成長に向けた取り組みは。

 「東京への一極集中が続いており、特に新型コロナウイルス禍後、再びその流れが強まっている。地方の魅力を高め、女性を含め若い世代の働く場、学びの場を創出していかなければならない。子育てしやすい環境づくりも重要だ。『新しい資本主義』『デジタル田園都市国家構想』を進めており、成長分野を中心とした国内投資の活性化によって地方での良質な雇用をつくり出し、ITインフラの全国展開で、医療、福祉、教育、子育ての環境整備に総合的に取り組んでいる。山形でも半導体関係や蓄電池関係への投資が見られる。国内投資をきっかけに雇用や地域活性化を実現する」

 ―円安や物価高騰を背景に中小・零細企業は厳しい経営環境に置かれている。価格転嫁できず、従業員の賃上げも難しい状況だ。

 「30年続いた『縮み志向の経済』の下、賃金や投資がカットされてきたが、今年の春季労使交渉で大企業だけでなく中小企業の賃上げが実現している。この変化の兆しを来年につなげる。賃上げや価格転嫁の機運を大企業も含めたサプライチェーン全体で盛り上げていく必要がある。また人手不足に苦しむ中小企業のために『省力化投資』も用意してきた。全国の『よろず支援拠点』を通じて、地方の中小・零細企業をサポートしていく」

 ―地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」を視察した。地域医療の持続・発展にどのように取り組むのか。

 「政府はかかりつけ医の機能が発揮される制度づくりを進め、地域医療提供体制の効率化、質の向上を目指している。こうした医療連携の取り組みは全国39法人が認定を受け、同様の仕組みは介護福祉分野にもある。これらの普及を促し、医療機関同士、医療と介護の連携を強化する」

 ―衆院解散・総選挙や総裁選への考えは。

 「政治改革や経済政策をはじめとする内外の先送りできない課題に全力で専念する、と申し上げてきた。それ以外については今は何も考えていない」

 ―次期参院選県選挙区、本県知事選の対応は。

 「知事選については現時点で何も決まったものはないと承知している。参院選は大内理加氏を擁立する意向が地元で強いと聞いており、県連などと協議し、党としての判断を決める」