小林製薬(大阪市)の「 紅麹(べにこうじ) 」成分入りのサプリメントを摂取し、健康被害が生じた人の中には、腎臓に障害が出た人が少なくありませんでした。腎臓とは、どのような役割を果たしている臓器なのでしょうか。今の時期は、健康診断を受ける人も多くいます。診断結果の見方とともに、腎臓の機能を低下させないポイントについて「内科クリニックこばやし」(相模原市)院長の小林一雄さんに聞きました。(聞き手・利根川昌紀)

体内のバランス保つ

――腎臓とは、どのような臓器ですか。

 背中の辺りにある臓器です。左右に二つあり、主な働きは、体に不要な物質を取り除き、尿として外に排出することです。

腎臓は機能が悪化しても無症状 健康診断で注目したい項目…紅麹サプリ、「ファンコーニ症候群」「尿細管間質性腎炎」とは?

 内部には、無数の細い血管が丸まってできた「糸球体」が、一つの腎臓に約100万個あります。糸球体の血管は、表面から血液中の老廃物や塩分などをこし取れる構造になっていて、「原尿」を作ります。原尿には、ナトリウムやカリウム、マグネシウムといった電解質(ミネラル)が多く含まれており、「尿細管」という管で再吸収されます。ミネラルのほか、必要な水分も再び取り込まれ、体内のバランスが保たれるようになっています。残りが尿として排出されます。

 また、骨髄で赤血球を作る働きを促す造血ホルモンを作る、骨に関係するビタミンDを活性化させる、血圧を維持するホルモンを分泌する――といった働きもしています。

「尿細管」が働かなくなると…

――小林製薬の紅麹成分入りサプリの問題では、患者の多くが「ファンコーニ症候群」や「尿細管間質性腎炎」と診断されています。どのような病気ですか。

 ファンコーニ症候群は、尿細管が働かなくなる病気です。多発性骨髄腫、アミロイドーシス、膠原病(こうげんびょう) といった病気を患ったり、薬剤などを服用したりすることで起こります。

 一方、尿細管間質性腎炎は、尿細管や、その周りの「間質」と呼ばれる部分に炎症が起こる病気です。

 尿細管が働かなくなると、水分やミネラルの再吸収が行われなくなり、体内でのバランスが崩れてしまいます。その結果、不整脈や 倦怠けんたい 感、嘔吐(おうと) 、食欲不振といった症状が出る恐れがあります。状態によっては、尿が増えたり出なくなったりします。

 原因となっている病気の治療をしたり薬剤の服用を中止したりすることで、回復が期待できます。点滴などで不足したミネラルや水分を補い、これらの体内バランスを調節する治療も行います。

尿検査と血液検査で調べるもの

――そのほか、腎臓の病気には、どのようなものがありますか。

 代表的なのは、「急性腎障害」と「慢性腎臓病(CKD)」です。

 急性腎障害は、何らかの要因により、腎臓の機能が急に低下する病気です。老廃物を排出したり体内の水分量を調節したりすることができなくなり、むくみや倦怠感などの症状が出ます。急性腎障害は、原因となっている病気を治せば、回復することが少なくありません。ただ、急性腎障害を患った人は、慢性腎臓病になりやすくなると言われています。

 一方、慢性腎臓病は、腎臓の機能低下が3か月以上続いている状態です。糖尿病や高血圧、肥満、喫煙などが、腎臓に悪影響を及ぼします。重症化すると、人工透析が必要になります。腎臓の機能を悪化させる病気は主に三つあります。糖尿病、腎臓の血管に動脈硬化が起きる腎硬化症、糸球体が炎症を起こす慢性糸球体腎炎です。

――むくみや倦怠感といった症状が出ていると、腎臓の機能が低下している恐れもあります。症状が出ないうちから気づく方法はありますか。

 腎臓は、病状が進行しないと症状は出ません。そこで、健康診断などで行う尿検査と血液検査が、腎機能を把握する上で重要になります。

 尿検査は、尿にたんぱく質が出ているかどうかを調べます。たんぱく質は体に必要なもので、健康であれば尿に出てくることはあまりありません。たんぱく質が尿に出ている量によって、腎機能の悪化の程度を測ることができます。たんぱく尿が出ていれば、将来、腎機能が低下することが予想されます。

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 一方、血液検査で、「血中尿素窒素(BUN)」や「血清クレアチニン(Cr)」といった項目を調べることもあります。BUNやCrは、体内でたんぱく質が使われた後にできる老廃物です。血液検査の数値が高ければ、腎臓の機能が低下してこれらの物質を排出できず、体内に多くとどまっていると判断できます。今では、Cr値、性別、年齢を用いて計算される「推算糸球体 濾過(ろか) 量(eGFR)が、腎機能を示す目安として広く用いられています。

自己判断でサプリは禁物

――健康診断などの結果、腎臓の機能が低下していた場合、どうすればよいですか。

 腎機能が低下している原因を調べることが大切です。まずは、かかりつけ医に相談してほしいと思います。医師の判断を仰がずに自己判断でサプリメントを摂取したり、ダイエットに励んだりすると、かえって状態が悪化してしまうこともあります。取り返しがつかないことにもなりかねません。

――腎機能を低下させないために、日頃、どのようなことに気をつけて生活すればよいですか。

 一般的には、血圧を適正な数値に保つようにすることが大切です。少しずつ体重を減らす、塩分や酒を控える、禁煙するといったことも重要です。いずれも医師と相談しながら、自分でできることに取り組んでいけば、健康を維持することにつながります。

 年に1回、健康診断を受けて、腎機能を検査することも忘れないでほしいと思います。腎機能の変化に気づくことができます。

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こばやし・かずお 1993年慶応大学医学部卒。北里研究所病院内科、亀田総合病院内科、慶応大病院腎臓内分泌代謝内科などを経て、2004年に「内科クリニックこばやし」開業。日本内科学会総合内科専門医。日本臨床内科医会学術委員・腎電解質班班長。神奈川県内科医学会高血圧腎疾患対策委員会委員長。横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科客員准教授。