演技派の俳優は普段、意外と物静かな人が多いという。「秀吉」「のだめカンタービレ」など数々のドラマに出演し、自ら映画監督も務める多才の人も例外ではなかった。

 「役を借りると何かが(ひょう)()するけど、今回は自分の本で、自分のことを話さないといけないんで……」。カメラにポーズを決めた後、取材に移ると少し斜めを向いて語った。

 刊行したのは、68歳を迎えた自身について記したエッセー集だ。区役所勤めの両親の一人っ子として育った子ども時代や芸能界に入った経緯。歌手の玉置浩二さんや俳優の吉永小百合さんらとのエピソードなどにも引き込まれる。

 昨年、片岡たまきさんの『あの頃、忌野清志郎と』が文庫化された際、解説を頼まれた。親交の深かった故人の思い出を「書き出すと止まらなくなった」という。この流れで本書も執筆することになった。

「文章はパズルを組み立てるみたい」

 「どこに句読点を打つかでリズムが変わるし、文章はパズルを組み立てるみたいで面白い。書く自分を飽きさせないことも大切ですし」

 書き上げた後、全文を3日かけて音読し語調を整えた。

 20代半ば、芸能界の仕事が増え始めた一方で自信が持てず、<オレは1年で消えるって思ってた>と振り返る。

 「自信を持って生きている人間なんているんでしょうか」と語る。「今でも初めての現場は、監督と合うだろうかなどと考えて眠れないです。仕事があって、セリフが覚えられるかなと不安になって。目の前のことを精いっぱいにやって。その繰り返しですよ」

 生きるうえで大切にしてきたのは、出会った人の「温度」だという。「例えば野田秀樹さんの舞台で、野田さんは袖から僕をずっと見ている。そうしてほしいのではないけれど、たまらないですよね」

 話す言葉に、ほど良く体温がこもってゆく。(筑摩書房、1815円)待田晋哉