小林製薬の「紅麹」を含むサプリメントを摂取した人に健康被害が相次いでいる問題で、健康被害の原因となった可能性があるとして発表されているのが「プベルル酸」です。まだ国内では研究が進んでおらず、謎に包まれた“未知の物質”が一体なぜ混入したのか。そもそも本当に存在するのか。独自の検証と専門家への取材から迫りました。(読売テレビ「紅麹」問題取材班)

■会社が繰り返した“未知の成分”プベルル酸とは?

読売テレビニュース

 今回の問題で、小林製薬は「紅麹コレステヘルプ」などの製品に想定外の物質が含まれていたとしていて、その物質は「プベルル酸」である可能性が高いことがわかっています。

 厚労省の発表では、「プベルル酸」は青カビからつくられる天然の化合物で、抗生物質としての特性があり、抗マラリア効果があるほど「毒性は非常に高い」とされています。

 ただ、実はこれまでに国内外で盛んに研究されている物質ではないということです。そのため、青カビの細胞内で合成されることはわかっていますが、どんな形で細胞の外に放出されるのか、青カビ中でどれくらいの量が作られるのかという情報はほとんどありません。研究者の中でも、その実態について、残るナゾは多く、人体への影響、とりわけ腎臓への影響についても明らかにはなっていません。

 数少ない記録として残っているものでは、北里大学が2017年に発表した論文があります。これは「プベルル酸」の抗マラリア効果を研究した論文で、「5匹のマウスに皮下注射すると、うち4匹が3日目までに死亡した」というものです。ただし、この実験はマラリア原虫に感染したマウスでの実験で、「プベルル酸」だけの影響で死んだのかはわかっていません。

■専門家「プベルル酸を作る青カビと確認されているものは非常に特殊」

長崎大学 北潔教授

 微生物に詳しい長崎大学の北潔教授は「青カビは何百種類もあるが、ほとんどの青カビはプベルル酸を作ることはない。プベルル酸をつくる青カビであると確認されているものは非常に特殊で数種類しか存在しない」と指摘します。

 培養タンクの中に、紅麹菌とは別の青カビ由来の成分が存在しているとみられる今回のケース。北教授によりますと、こういった複数の微生物が同じ空間にいる場合、一緒に増殖するということはあまりなく、栄養を奪い合い、より環境に適している方が早く増殖し、できるだけ優位になるよう他の微生物の増殖を抑えるなどの動きが起きるはずだということです。

 紅麹菌は温度や湿度などの管理が必要で、限られた条件でしか育たない弱い菌で、プベルル酸を作るとされる青カビが同じ空間にあった場合には、青カビの方が先に増殖していくとする複数の専門家や同業者の指摘もあります。

 微生物に詳しい長崎大学・北潔教授

「現時点では、プベルル酸を作る非常に特殊な青カビが製造ラインの近くにあったという評価までしかできない。ただ、例えば、正月の鏡餅に生えるような青カビなどとは全く違って、普通は空気中にはないものなので、なぜそれがその場所に存在したのかはわからない」

■独自に解析「紅麹コレステヘルプ」の錠剤から「プベルル酸と同じ性質を持つ化合物」を確認

読売テレビニュース

 小林製薬は去年4月から10月に製造した「紅麹」原料から、プベルル酸を検出したとしていますが、実際に販売されていたサプリメントに「プベルル酸」は存在していたのか―。

 健康被害が出ている機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」について、小林製薬は「想定していない成分が含まれている可能性がある商品」として、18種類の製造番号を公表していますが、今回、読売テレビではこのうちの1つの商品を入手し、生体成分分析が専門の近畿大学薬学部・多賀淳教授に分析を依頼しました。

 分析方法は小林製薬が行ったとしている調査と同じ「高速液体クロマトグラフ」で行いました。また、原因物質の可能性が高いとしている「プベルル酸」が検出される条件に絞って行い、紅麹コレステヘルプの錠剤の中に「プベルル酸」と同じ成分が存在するかどうか調べました。

読売テレビニュース

 その結果、「物質が光を吸収する量」と「質量」でみた場合、紅麹コレステヘルプに「プベルル酸」と同じ性質をもつ化合物が存在することが確認できました。

 近畿大学薬学部 多賀淳教授

「プベルル酸を検出する条件でみられるピークはいくつか存在しています。ある程度物質の候補が絞れていて、"これかなという候補がある時は、標準物質を入手すれば、2日から3日くらいでこの化合物かなというところまでたどり着くと思います」

 この化合物が最終的に「プベルル酸」であると断定するためには、「標準物質」と呼ばれる、いわば“ものさし”となるプベルル酸が必要です。しかし、多賀教授によると、プベルル酸は珍しい物質のため、通常では入手が難しいということです。

近畿大学薬学部 多賀淳教授

 近畿大学薬学部 多賀淳教授

「プベルル酸というのは、私も今回初めて聞きました。文献も少なく、あまり研究されるような対象ではないので、簡単に業者から標準物質が購入できる状況にはなっていない。業者に合成の依頼をかけるので、入手するだけでも数か月かかってしまうかもしれない」

 その上で「今回は条件を絞って分析したものの、実際に全く手がかりのない状態から、原因物質を特定するのは難しかったのではないか」と指摘しました。

 近畿大学薬学部 多賀淳教授

「割と広い視野で分析して、いつもと違うというものを見つけ出して、ターゲットを絞っていくことになる。普段ならばあるはずのものと本来ないはずのものを照らし合わせる作業になるので、(小林製薬も)大変だったかと思います」

■小林製薬「初期段階からもっと多面的に調べていれば早く物質が特定できた可能性がある」

小林製薬の会見(3月29日)

 小林製薬は健康問題の発覚以降、初期段階の原因物質の特定作業について、「既存の化合物で腎臓への毒性がすでに明らかになっている物質が検出されるかどうかについて、多くの時間を割いた」と説明しています。

 小林製薬によりますと、具体的には腎臓など人体に悪影響がある主なカビ毒である「シトリニン」「総アフラトキシン」「オクラトキシン」「ゼアラレノン」「デオキシバニレノール」の5種類は検出されなかったといいます。そこで、範囲を広げて探す中で、青カビから発生することがある「プベルル酸」の可能性に行きついたということです。

 小林製薬は「今から考えれば、初期の段階からもっと多面的に調べていれば、早く物質が特定できた可能性があった」と初期の対応の難しさを認めています。(つづく)

※8日に「独自検証②“紅麹”同業者・共同研究者が語る」を配信します。