様々な詐欺が蔓延る中、『ニセ“逮捕状”詐欺』という新たな手口が報告されています。中には、約1億円を騙し取られた被害者も…。「ミヤネ屋」は、実際に詐欺に遭った男性を独自取材。その“巧妙な手口”と“詐欺の実態”とは?なぜ身に覚えのないはずの“逮捕”を信じ、金まで騙し取られてしまうのか?元埼玉県警捜査1課・佐々木成三(なるみ)氏の解説です。

「私自身も容疑者扱いされ、“逮捕状”が出ていますと…」実際に詐欺に遭った男性が激白!3人の“警察官”“検事”が次々に…『ニセ“逮捕状”詐欺』の巧妙な手口とは―

『ニセ“逮捕状”詐欺』の巧みな手口とは―

(愛知県在住の30代男性)

「トータル3人出てきました。もう警察だと思い込んでいたので、全く問題ないだろうと…」

 愛知県在住の男性(30代)が激白したのは、巧妙に仕組まれた『ニセ“逮捕状”詐欺』の手口です。事の起こりは、2024年5月13日―。

(男性)

「最初に、非通知で私の携帯に電話がありました。その後、愛知県警を名乗る方から電話があって、僕の口座が悪用されていると」

相手は、実家の住所まで知っていた

 “愛知県警を名乗る男”は、男性の名前はおろか実家の住所も知っていたといいます。男性が「口座には身に覚えがない」と答えると、事件を管轄するという“栃木県警を名乗る男”に繋がれ、コミュニケーションアプリ『LINE』でのやり取りを要求されました。

なぜかLINEでのやり取りを要求され…

(男性)

「『LINE』のやり取りで、その容疑者との繋がりがないかを調査したいのが、1点目。ちゃんと身分を明かしたいということで、先方から身分を明かすためにビデオ通話をさせてほしいと、一旦電話は切れます」

表示名は「捜査本部」、プロフ画は「紋章」

 『LINE』のやり取りを見せてもらうと、相手側は警察を思わせるような「捜査本部」という表示名で、プロフィール画像は旭日章のような「紋章」。ビデオ通話でやり取りを行った男性は、相手から警察手帳のようなものを見せられた上、肩書きを名乗られるなど巧みな言い回しもあり、すっかり信じ込んでしまったといいます。

“逮捕状”の写真が送られてきた…

 さらに、「あなたは犯人と共犯の疑いがある」と指摘され…。

(男性)

「実は私自身も容疑者扱いされているという話を受けて、実際に逮捕状が出ていますと、そういった画像がLINEを通して送られてくるという形です」

 実際に『LINE』で送られてきたニセの逮捕状には、「罪名 犯罪収益隠匿罪」「上記の被疑事実により、被疑者を逮捕することを許可する」などの文言をはじめ、男性の氏名・住所・生年月日、逮捕状を請求した警察官、許可を出した裁判官まで、事細かに記載。朱印のようなものも押されていました。

第3の人物、“検事を名乗る男”が登場

 男性はその後、やり取りの中で「疑いを晴らすには“資産調査”が必要」と言われたといいます。そして、次のタイミングで…。

(男性)

「“検事”と名乗る人間が出てきました」

 愛知県警・栃木県警の警察官に次ぐ、3人目の男―“検事”が登場。

(男性)

「『実際に“検事”が詳しい状況をいろいろと確認したいから、電話を替わります』っていう形で、“栃木県警を名乗る男”から“検事”に替わっていくという流れになります」

 “検事を名乗る男”からは、「指定の口座に振り込めば、“資産調査”の上、無罪を証明できる」と言われ、さらに「入金の確認後には、返金も可能だ」と説明されたといいます。

振込先の口座が凍結…間一髪で難を逃れた!

 男性は、指定された口座に約60万円を入金。ただ、振込先の口座が凍結されていたため入金処理は行われず、実際の被害はなかったといいます。

 電話やビデオ通話で、約2時間も話をしたという男性。途中で電話を切ることは、できなかったのでしょうか―。

(男性)

「私自身が、もう犯罪に片足を突っ込んでいるような設定になっているので、電話を切ると捜査に“不協力”という形で、すぐ捕まえに行けると言われました。未解決の犯罪だから、誰かに話した場合『刑法134条の秘密の漏洩』に当たって、それでも捕まえられちゃうと言われたんで…」

「非通知」「LINEでやり取り」「捜査情報をLINEで送る」は100%あり得ない!「個人情報は卒業アルバムに載っている」特定されていても慌てず、冷静な対応を

ビデオ通話で“警察手帳”を見せられ…

 男性によると、ビデオ通話では、短髪で体格が良いサラリーマン風の男(42〜43歳)が「栃木県警捜査2課の●●です」と警察手帳を見せてきたということです。

元埼玉県警捜査1課・佐々木成三氏

Q.警察が「『LINE』でやり取りしてください」と言うことはあるんですか?

(元埼玉県警捜査1課・警部補 佐々木成三氏)

「100%ないです。警察は『LINE』の公式アカウントを持っていませんし、捜査情報をこういった“SNS”に流すことも、あり得ないです」

Q.警察は、電話をかけてから家に来ることもあるのですか?

(佐々木氏)

「アポを取るために電話をかけてくる場合もありますが、“非通知”はないです。ビデオ通話は100%ないです」

“逮捕状”には全ての項目が記載されていたが…

 また、佐々木氏は写真で送られてきた“逮捕状”にも矛盾があると指摘。そこには、「逮捕状(緊急逮捕)」「被疑者(男性)の氏名・年齢・住居・職業等」「裁判所 栃木地方裁判所」「請求者の官公職氏名 栃木県警・司法警察員警部 ●●」「逮捕者の官公職氏名 栃木県警・司法警察員警部補 ●●」「記名押印 栃木地方検察庁・検察事務官」などと書かれていて、男性の個人情報には間違いがなかったということですが…。

“緊急逮捕”なのに逮捕状が出ているのは「100%あり得ない」

Q.“緊急逮捕”は、本当にあるのですか?

(佐々木氏)

「あります。ただ、司法制度をよく知っている刑事などが見ると、これは100%あり得ない書類です。まず『緊急逮捕』というのは、逮捕状がなくて、実際に緊急に逮捕できる条件があった場合にできるものなので、その場合の逮捕状は逮捕した後に犯人に見せます。つまり、逮捕される前に逮捕状が出ていることはないです。緊急逮捕の逮捕状は実際にありますが、それともちょっと違います」

裁判所名などにも違和感

(佐々木氏)

「また、『栃木地方裁判所』というのは、ないです。県名ではなく『宇都宮』などになります。あと、逮捕状に通常逮捕状というのがあって、これが出ていたら裁判官の公印が押されているはずですが、この逮捕状には押されていません。さらに、その下に『請求者の官公職氏名 栃木県警・司法警察員警部』や『逮捕者の官公職氏名 栃木県警・司法警察員警部補』と書かれていますが、栃木県警ではなく警察署が書いていないとおかしいです」

あるべき場所に押印がなく、ないはずの場所にある

(佐々木氏)

「あと一つ、『栃木地方検察庁』とありますが、送致を受けた時に検察事務官がハンコを押すので、送致を受ける前に押印があること自体がおかしいです。しかも、印鑑が『警視庁捜査二課』となっていますね…。これは刑事などが見ると明らかに違うのですが、見たことのない方は不安になりますよね。ただ、逮捕状は必ず紙で見せますので、デジタル上でやり取りすることはないです」

“劇場型詐欺”の巧妙な手口

 男性は、“栃木県警を名乗る男”から「今まで通りの生活を送るため『資産調査』をかけることができますが、検事の判断に任せないといけません」と言われ、「電話を切ると、捜査に非協力的ということで、すぐ捕まえに行くことができます」と、一連の流れで次々と人が入れ替わる中、“電話を切るな”という脅しまでされたということです。

Q.“資産調査”や“電話を切るとすぐ逮捕”というのも、冷静に考えれば変な話ですよね?

(佐々木氏)

「まず、詐欺の手口としては、最初に“警察官だと思い込ませる”ことが大切になってきます。そこから不安を煽っていますので、この時には、もう被害男性は冷静な判断ができない状態になっていると思います」

“電話を切るな”の次は、“誰かに言うな”と脅し

 そして、電話を替わった“検事を名乗る男”に「資産状況を確認したい。この口座に振り込んでもらえれば資金調査をすることができて、確認後は返金も可能だ」と言われ、資産状況確認のため指定された個人口座への入金を指示されました。また、「未解決の犯罪だから、誰かに話した場合は刑法134条の秘密の漏洩に当たって、逮捕されてしまう」と、電話を切る前には“口止め”があったといいます。

Q.警察官と検事が電話を替わるなんてことは、あるんですか?

(佐々木氏)

「ないです。逮捕前は警察署が管轄するものなので、ないです」

「潔白が証明できればと思い…」人の心理を巧みに利用

 男性は、騙された理由について「名前や実家の住所まで知っていて、本当かと思うほど話が上手だった。身に覚えがなかったので、潔白が証明できればと思い、言われる通りにしてしまった」と話しています。

Q.途中で詐欺だとわかったとしても、自分の住所・年齢・職業まで知られていると逆に怖いと思うのですが、こういう時はすぐ警察に連絡することが大切ですか?

(佐々木氏)

「すぐ連絡してほしいです。この世代は、私の世代もなのですが、卒業アルバムに情報が載っていますので、個人情報が漏れていることは前提で対策を考えなければならないと思います」

“非通知”だけではない!実際にある警察署の代表番号からでも要注意 約800万円送金の被害も…本物と偽物、見分け方は?

実際にある警察署の番号から電話が…

 一方で、非通知ではない警察を騙る詐欺も発生しています。2024年3月、福岡県在住の男性(25)のもとに、警察署が使用する電話番号(末尾「0110」)から電話がありました。“高知県警を名乗る男”からで、「あなた名義の口座が、詐欺グループに利用されている。あなたも容疑者になっている。身柄を拘束されたくなければ、保釈保証金を支払うように」と言われました。

 男性によると、電話番号は実際の高知県警察本部の代表番号に国際電話を示す「+1」がついたものでしたが、 “警察だ”と思い込み、指定された口座に約800万円を送金してしまいました。

インターネット電話を使えば「別の番号に変えて表示」できる

 なぜ、実際にある警察署の番号からかかってくるのか―。ITジャーナリスト・三上洋氏によると、「アメリカでは、インターネット電話などを使用する際に、発信者番号を別の番号に変えて表示させることができるサービスがある。ただし、『+1』など発信元の国番号は変更することはできない」ということです。

 『+1』はアメリカの国番号で、高知県警は「犯人側は『+1』で始まる国際番号を使用していて、続く番号が高知県警察の代表番号(088-826-0110)と同じになっているケースがあります。高知県警が国際電話を利用することはありません(日本国内の場合)」と、注意喚起しています。

(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年5月22日放送)