【ふくしま創生】福島県南相馬市に大規模試験線 来年度整備 次世代交通担う 自走式ロープウエーの開発企業

次世代の公共交通として期待される自走式ロープウエー(ジップ・インフラストラクチャー提供)

 福島県南相馬市の企業「Zip Infrastructure(ジップ・インフラストラクチャー)」は2025(令和7)年度、次世代交通機関として期待されている自走式ロープウエーの大規模試験線を市内に整備する。2030年度ごろに国内で公共交通としての運行開始を目指し、海外での普及も視野に入れている。将来的には車両を量産する工場を相双地域に設けることも検討しており、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の被災地の雇用創出や経済活性化につなげる。福島で実証された技術を世界に発信する。

 福島イノベーション・コースト構想推進機構の支援を受け、福島ロボットテストフィールド(ロボテス)の敷地の一部と隣接する土地を試験線用地として活用する。約1キロにわたる試験線を建設中で、2025年秋の完成を予定している。

 自走式ロープウエーは、2本のロープ(軌道)の上の車輪が電力で駆動し、下部のゴンドラを運ぶ。従来のロープウエーは原則、直線的な移動だが、カーブや分岐を自由に設けられ、柔軟な路線設計が可能となる。道路上空にも設置できるため、交通渋滞の緩和に効果があるとされる。

 建設費用は鉄道の5分の1から10分の1ほどになる見通し。自動運転のため、人件費も抑えられる。国内では実用化されていない。

 ジップ・インフラストラクチャーが開発している自走式ロープウエーの名称はZippar(ジッパー)。車両は12人乗りで、最高速度は時速36キロ。風への耐久性に優れ、既存のロープウエーの1.5倍の風速30メートルの範囲内で安全に運行できる。

 南相馬市の試験線は、神奈川県にある同社の試験線に続いて2カ所目となる。自動運転システムの実証を進め、国土交通省などの承認を目指す。公共交通機関としての実用化は都市部を視野に入れている。神奈川県とは導入を見据え連携協定を結んでいる。

 ジップ・インフラストラクチャーは今春、本社を神奈川県秦野市から南相馬市に移転した。県内での実用化の可能性について「今後、導入可能箇所があるかなどの検討から開始したい」としている。

 国土交通省は昨年6月に交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会で、地域公共交通政策の在り方についての最終とりまとめを公表した。「今後、実用化が期待される新たなモビリティの一例」として同社の自走式ロープウエーが記載されている。

 須知高匡社長は「福島で実証された技術を国内外に発信し、被災地の復興に貢献したい」と意欲を見せている。

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