【大島幸久の伝統芸能】市川男女蔵は不器用でいいんです

スポーツ報知
「毛抜」の粂寺弾正を演じる市川男女蔵(右)と後見の市川團十郎(C)松竹

◆歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」(26日・千秋楽)

 市川男女蔵(56)をご存じか。海老蔵ではない。おめぞう。骨太の武士や大敵役、老け役を真正面に演じる貴重な脇役だ。父が他界した4世市川左團次。昼の部で歌舞伎十八番の内「毛抜」の主役・粂寺弾正を演じている。「一年祭追善狂言」である。

 4世左團次は楽しくうれしい役者だった。観客に喜んでもらうのが信条。2世左團次が復活した「毛抜」は家の芸。愛嬌(あいきょう)があって豪快で、お得意の役。スケールが大きいから見得(みえ)がよく映えた。

 男女蔵は父と同じく不器用だと言っている。だが不器用はいけないのか。いいんです。歌舞伎立役の褒め言葉は「でっけえ」。大きな舞台ぶりこそが最高。こせこせしない芸が人気を呼ぶ。

 髪の毛が逆立つ奇病に悩む姫・錦の前を見舞う弾正が花道に立つ。父の大きさに並ぶのは少し先だろうが碁盤を大胆に描いた裃(かみしも)の衣装が似合い、いいさばき役だ。

 長男・男寅(28)が扮(ふん)する錦の前の奇病を見て驚く。「え?」。この表情が面白い。接待役の秀太郎(梅枝)にスケベそうな目付き。「お茶が食べたい、でえす」というせりふが実に自然だった。最初の大見得で「グワッ~」と聞こえた声、顔付きは父そっくりになった。

 浅草公会堂以来2度目。いずれ3回目がある。成田屋の「毛抜」に負けるな。まずは主役を食うような役者へ。次の脱皮、飛躍を待っている。(演劇ジャーナリスト・大島 幸久)

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