<社説>水俣病と環境省 被害を直視しているか

 熊本県水俣市で行われた水俣病の患者団体などと伊藤信太郎環境相の懇談で、環境省職員が団体側の発言中にマイクの音を複数回切り、発言を遮っていた。
 伊藤環境相はきのう現地を訪れ不適切な対応だったと謝罪した。
 環境相の帰りの新幹線に間に合わせるため、1団体3分間の発言時間を超えるとマイクの音を切る運用を決めていたという。
 折しも未救済の患者の存在を認める司法判断が続いている。
 にもかかわらず、当事者の声を拒むに等しい対応を取るようではあまりに事務的で冷たく、不誠実と言わざるを得ない。
 患者団体などは「苦しみ続ける被害者たちの言論を封殺する許されざる暴挙」と批判しており、謝罪は当然だ。
 水俣病は全面救済からほど遠い状況にある。被害の訴えに寄り添い、救済を急ぐのが国の責務だ。実態を軽視するような姿勢が解決を遅らせているのではないか。
 懇談は水俣病の公式確認から68年を迎えた1日に営まれた犠牲者慰霊式の後、伊藤環境相が当事者の声を聞く場として設けられた。
 だが、苦しんで亡くなった妻のことを話していた未認定患者団体の副会長は、職員から「話をまとめて」とせかされて音声を切られ、マイクを回収されたという。
 慰霊式は毎年恒例で、患者らが長年の苦しみを国に直接伝える貴重な場となっている。
 なのに伊藤環境相は患者らの抗議で紛糾する中、会場を去った。本来なら水俣病対策を担う行政トップとして職員を制し、患者らの話を聞くべきだった。そもそも3分間という設定自体短すぎる。
 水俣病を巡っては、2009年施行の被害者救済特別措置法などに基づく救済を受けられなかった人たちが国などに損害賠償を求めた訴訟が4件起こされ、3件で一審判決が出ている。
 除斥期間の適用などで違いはあるが、昨年9月の大阪地裁、今年3月の熊本地裁と4月の新潟地裁のいずれの判決も、国の救済の対象とならなかった人を新たに患者と認めた。
 救済策から取り残された被害者がまだ多いことを示したと言える。制度の不備はもはや明白だ。
 最高裁は04年の判決で、被害拡大の防止を怠った国の責任を認定している。
 政府と国会は、被害者を網羅的かつ恒久的に救済する制度をつくるべきだ。被害者は高齢化が進む。急がねばならない。
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