神戸市のJR神戸線元町駅で26日朝に起きた新快速の人身事故。通過する新快速に飛び込んだ男性(42)は客室にまで入り、乗客を巻き込む惨事になった。JR西日本では過去5年間、同様の人身事故は見当たらないという。何が起きたのか。なぜ防げなかったのか。ホームのカメラ映像を確認した捜査員やJR西、乗客などへの取材で事故の状況を再現した。
午前8時20分すぎ、通勤通学ラッシュが終わりかけていた元町駅構内は乗客もまばらだった。男性は黒いコートにリュックサック姿でホームにたたずんでいた。
新快速は三ノ宮駅を定刻に出発し、次に停車する神戸駅へ速度を上げた。運転士が異変に気付いたのは約100メートル手前だった。男性が線路に近づいた。行く手を遮るものは何もない。新快速の時速は約100キロ。非常ブレーキも間に合わなかった。
「ガシャン」。大きな音をたて、男性は先頭車両前方に激突。厚さ約10ミリのフロントガラスを破り、運転室後方のガラスも突き破った。客室前方に立っていた男性(45)にぶつかり、男性は腕を骨折する重傷を負った。女性の悲鳴や子どもの「怖い」と叫ぶ声が飛び交い、気分不良を訴える乗客も相次いだ。
男性が飛び込んだ理由はまだ分からないが、専門家はホームドアがあれば思いとどまった可能性を指摘する。ホームドアを設置している鉄道では投身による人身事故が減っているという指摘もある。
ただ、元町駅にはホームドアが設置されていなかった。新快速が通過するホームには簡易なロープが張られているが、ラッシュ時間帯は同じホームに快速電車も停止するため、事故発生時刻にはロープも外されていた。JR西によると、現時点で元町駅へのホームドア設置予定はないという。
国土交通省によると、2020年3月末時点で全国9465駅のうちホームドアがあるのは858駅。兵庫県内のJR線では、山陽新幹線の新神戸駅と在来線の六甲道、三ノ宮、明石駅にしかない。(高田康夫、谷川直生)