カンテレTIMES

——バンクシーと同じジレンマを抱えて 密着取材したジャーナリストが語る「キース・へリング」

2024/05/16

キース・ヘリング(1958-1990)は、アメリカ北東部ペンシルベニア州生まれ。1980年代初頭にニューヨークの地下鉄駅構内で、使用されていない広告板を使ったサブウェイ・ドローイングと呼ばれるプロジェクトで脚光を浴び、アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアと共にカルチャーシーンを牽引し、国際的に高い評価を受けたアーティスト。

日本を含む世界中での壁画制作やワークショップの開催、HIV・エイズ予防啓発活動や児童福祉活動を積極的に展開したことでも知られ、約10年の短いともいえる活動期間の後、90年にエイズの合併症により31歳の若さで死去した。


ファストファッションブランドから雑貨まで、様々なコラボレーションで見かけるキース・へリングの作品。名前は知らなくとも、作品を見れば思い当たる人も多いだろう。
1982
12月~19831月にかけ約10日間、ニューヨークでキース・ヘリングを密着取材したジャーナリストがいた。

村田真(むらた・まこと)/美術評論家/BankARTスクール校長
1954
年東京生まれ。1977-84年ぴあ株式会社勤務。「ぴあ」の姉妹誌「Calendar」のため、198212月~19831月にかけ約10日間、ニューヨークでキース・ヘリングを密着取材。


<村田氏>
まず初めに会った時は、とにかく“細長い人だな”と思いました。長くて、ずっと上に方に顔がついていて、その顔が“赤ちゃん”みたいな。すごく童顔だったので。アンバランスで、「この人は大人なのか子どもなのか分からないな」というイメージでした。


そんなキース・へリングが1980年代初頭(活動初期)に始めたのが「サブウェイ・ドローイング」というプロジェクト。キース・へリングは、人種や階級に関わらない「アートはみんなのために」という信念のもと、ニューヨークの地下鉄駅構内にある広告板に白いチョークで作品を残し始めた。
※当時は広告ポスターが貼られていない期間には黒い紙が貼られていた

<村田氏>
初めに作品を見たときは漫画チックで…正直、美術的にどうなの?と思っていました。でも、彼にインタビューをして色々と話を聞いてみると、美術史の知識もあるしすごく勉強していたんですよ。その上で、自分のスタイルを確立していった。そして、そのスタイルを地下鉄で描くことによって洗練させてよりシンプルにしていった。そういう意味では単に漫画チックだとか、子ども受けするような絵ではないんですよね。


目が肥えたニューヨーカーたちを地下鉄から瞬く間に魅了していったキース・へリング。
しかし、彼の「サブウェイ・ドローイング」プロジェクトは約5年間の活動の後、中止されることになる。

<村田氏>
彼はやっぱり多くの人に見てもらいたい。美術館やギャラリーの“アートを見る前提”の人たちだけでなく、もっと一般の普通の人たち。さらに何万人という人たちに見てもらうためには地下鉄がいい、ということで描き始めたんだけども、段々と人気が出てくると剥がして持って帰る人や、あるいは売ったりする人が出てくるんですよ。そこで彼の活動に矛盾が生じてきた。自分が知らないところでお金になってしまっている。

キースと似たようなことを今やっているのは…バンクシーもそうですよね。
彼も社会的なメッセージをグラフティという形で見せているけど、バンクシーも自分描いたグラフティが高く売れるようになっていって、壁に描いた作品は切り取ってオークションに出されたり、私物化されたりとか、そういう風になっていった。それは彼の望んでいることではなかったはずですからね。そのジレンマをキースは何十年も前に抱えていたアーティストですね。

ただ、バンクシーはそのジレンマを楽しんで、また逆手にとってその上を行こうとしている。
キース・へリングはそこまでやっていないのだけど、自分の人気を反核運動や反戦運動につぎ込むということはやっていましたね。


明るく、ポップなイメージで世界中から愛されているキース・ヘリング。
その作品たちにはポップや漫画チックという言葉だけでは語れないメッセージが込められている。わずか10年のアーティスト活動に秘められたメッセージとは。キース・ヘリングとは何者か。

活動初期の「サブウェイ・ドローイング」を始め、6メートルに及ぶ大型作品や日本初公開を含む約150点の作品を通してヘリングのアートを体感できる展覧会が神戸で開催中。様々な社会問題に最後までアートで闘い続けたキース・ヘリングの作品は、現代社会に生きる私たちの心も揺さぶるだろう。

第1弾の掲載記事はこちら
https://www.ktv.jp/kanteletimes/detail.html?pageid=a69370627a9743f4b37c7044eee3423e

<開催概要>
キース・ヘリング展 アートをストリートへ
■会  期:2024427日(土)~623日(日)
■開場時間:10001730(入場は1700まで)
■休  日 :月曜日 ※祝日の場合は翌日
■会  場:兵庫県立美術館ギャラリー棟3階ギャラリー

※会期・開館時間・展示内容等は変更の可能性があります。ご来場前に必ず展覧会公式サイトをご確認ください。

<神戸展公式サイト>
https://www.ktv.jp/event/kh2023-25/