社説:同性婚と名字 不利益生じない社会に

 家族として生活する上で、不安や不利益を感じる当事者たちに司法が寄り添ったといえよう。

 同性パートナーと暮らす愛知県の男性に対し、名古屋家裁が「婚姻に準じる関係」として3月、パートナーと同じ名字への変更を認める決定を出した。戸籍法の「やむを得ない事由」に当たるとの判断で、同様の事例で変更が認められるのは異例という。

 男性にはパートナーと共に育てている里子がいる。子どもの病院受診や保育園通園の際に、名字が異なることで、性的指向を周囲に明かしていないパートナーとの関係の説明を求められる恐れがあるとして、「生活に多くの支障が生じている」と訴えていた。

 家裁は男性の懸念を認めた上で、2人の生活が異性同士の夫婦と実質的に変わらないとして、「異性カップルと同様の法的保護を与えることは許容されるべき」との判断を下した。

 同性だからとの理由で不利益に悩む当事者の新たな選択肢となろう。社会で理解が広がる契機にもつなげたい。

 国内外で同性カップルに肯定的な意識の広がりを背景に、異性間と同様の権利を認める司法判断が続いている。

 全国5カ所で6件の裁判が進む同性婚訴訟では、認めない法規定に対して「違憲」や「違憲状態」の判断が相次いだ。

 3月には犯罪被害者の遺族を対象にした給付金について、最高裁は「同性パートナーも給付対象になりうる」とした。

 自治体でも性的少数者らのカップルを公認するパートナーシップ制度の導入が広がる。4月から京都、大阪、兵庫の42自治体間で転居する場合は、宣誓効果が継続できるようになった。

 対して、国会では政治の不作為が目に付く。自民党の「保守系」議員の反対が根強く、同性カップルの法的権利の保護に向けた議論が進んでいない。

 先進7カ国(G7)で同性婚や国レベルのパートナーシップ制度を導入していないのは日本だけだ。共同通信が実施した憲法に関する世論調査で、同性婚を「認める方が良い」としたのは約7割にのぼった。

 当事者の希望に沿い、結婚前の名字を使うことを認める「選択的夫婦別姓制度」の導入を求める世論も大勢を占める。

 性別や名字に関わりなく、誰もが自分らしく生きられる社会になるよう議論を急ぐべきだ。

© 株式会社京都新聞社