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知らないと損をする がんになったら障害年金を受給しよう

勝俣範之・日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授
さいたま市の病院で患者らの相談を受けるNPO「がんと暮らしを考える会」のファイナンシャルプランナーら=2018年11月、高野聡撮影
さいたま市の病院で患者らの相談を受けるNPO「がんと暮らしを考える会」のファイナンシャルプランナーら=2018年11月、高野聡撮影

 がん治療が進歩して、より長くがんと共存できる時代になってきました。分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の登場はがん治療を大きく変えたと言ってよいでしょう(注1)。しかし、一方で、治療が長期化し、いつまで分子標的薬を続けたらよいのかが、専門医の間でも議論されています。また新薬の値段が非常に高額なため、新たに「経済毒性」という問題が出てきました。

 2018年にノーベル賞を受賞した本庶佑先生が開発に関わったニボルマブ(商品名オプジーボ)は、発売当初、1人あたり年間約3500万円というの破格の薬価がつきました。このままだと医療保険財政が破綻してしまうとして、中央社会保険医療協議会(中医協)が価格を引き下げました(注2)。それでも、年間約1500万円かかります。現在、免疫チェックポイント阻害剤は8剤が市場に出ており、新たな分子標的薬は今後も続々と登場します。そのほとんどは1カ月に100万円近くかかるため、費用負担の問題は今後も議論の的になるでしょう。今回は、がんと診断された時に利用できる公的な支援制度について、医師主導ウェブサイト「Lumedia(ルメディア)」のスーパーバイザーを務める勝俣範之・日本医科大武蔵小杉病院教授が解説します(この記事は帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科の渡邊清高・教授がレビューしました)。

がんの経済毒性とは

 がんの経済毒性とは、がんの治療費がかさんで患者さんの生活が圧迫され、生活に悪影響が出ることを言います。がんになると、職を失ったり、雇用機会が減ったりすることがあり、仕事の活動性が下がります。それはがん患者さんに追い打ちをかけることにもなります。

 近年、がんの経済毒性は、世界的にも問題となっています。経済毒性のリスク因子(起きやすい要因)には、若年者、非白人、未婚、低学歴、扶養家族と同居、低所得、住宅ローン、より重篤な病気、積極的な治療、低いQOL(生活の質)などがあることが報告されています(注3)。日本と同様に公的保険のあるイタリアからは、経済毒性ががん患者さんのQOLの悪化、死亡リスクの増加と関連していたという報告があります(注4)。

 日本でも、愛知県立がんセンターの医師ががんの経済毒性について報告しています(注5)。156人のがん患者さんに対して、経済毒性を評価する国際的指標のCOSTスコア(数字が小さいほど経済毒性が低い)を用いて調べたところ、中央値は21(0~41)でした。経済毒性への対応として、抗がん剤を止めたり、変更したりした人は少なかった(2%)のですが、レジャー(旅行、外食、映画など)を普段より減らした人が44%、食費や医療費を削った人が28%いました。このことは、がん患者さんのQOL悪化に関連していることを示していると思われます。

医療費負担を軽くする公的制度は複数ある

 病…

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日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

1963年生まれ。88年富山医科薬科大学医学部卒業。92年から国立がんセンター中央病院内科レジデント。2004年1月米ハーバード大生物統計学教室に短期留学。ダナファーバーがん研究所、ECOGデータセンターで研修後、国立がんセンター医長を経て、11年10月から現職。専門は内科腫瘍学、抗がん剤の支持療法、乳がん・婦人科がんの化学療法など。22年、医師主導ウェブメディア「Lumedia(ルメディア)」を設立、スーパーバイザーを務める。