自衛隊による空港・港湾の特定利用、本当は何のため? 防衛力強化へ、国は候補施設がある市町への説明を始めているが…「有事」の論点はあいまいなまま

 防衛力強化の一環として、有事の際に自衛隊や海上保安庁が円滑に利用することを想定する「特定利用空港・港湾」について、政府は鹿児島県内の候補施設(8市町8カ所)が立地する市町に取り組み内容の説明を始めている。2024年度、政府は北海道や沖縄など7道県を選定。鹿児島県内の施設は管理者の県が合意すれば、年度途中で選ばれる可能性がある。専門家は「有事という論点を後景化せずリスクも含め丁寧に説明すべきだ」と話す。

 内閣官房によると、自衛隊や海保が民間の空港・港湾を平素から円滑に利用するため、自治体などの施設管理者と確認書を交わす。これまでは利用するたびに一から調整していた。選ばれた施設は国民保護や戦闘機の離着陸訓練の拠点とするため滑走路延長や港の岸壁整備を促進する。

 鹿児島県内の候補は2空港6港湾。鹿児島空港以外の管理者である県は受け入れの可否を判断するに至っておらず、立地する市町へ内容や目的を説明するよう国に求めている。和泊港が候補となっている和泊町は9日、国とのウェブ会議に前登志朗町長や副町長らが出席した。

 前町長は「民生利用がメーンで災害時の人員や物資輸送のスムーズな運用に役立つことが分かった」と振り返る。有事の際の利用について説明はなかったという。「特定利用として選ばれなくても、有事の際は別の法律で民間の港を自衛隊が利用する可能性があることは内閣官房のホームページなどを見て理解している」。16日には西之表市に対する説明会があった。

■円滑な利用

 川内港が候補となっている薩摩川内市の樋口武士建設部長は「国や県から具体的な説明がない状況で、事業内容にコメントする状況ではない」と話す。他の市からは「管理者である県が方向性を示して」「何を目的としているのか分かりにくい」といった声が上がる。

 取り組みは2022年に閣議決定した国家安全保障戦略など安保3文書に記した「公共インフラ整備・機能強化」に基づく。文書には「有事の際の展開などを目的とした円滑な利用・配備」という記述がある。

 一方、内閣官房はホームページのQ&Aに「有事の利用を対象とするものではない」と記載。有事の利用調整は「武力攻撃自体等における特定公共施設等の利用に関する法律などに基づく」としている。取り組みの目的から「有事」が外れた理由について、内閣官房国家安全保障局の担当者は「有事の際は既存の法律の範囲内で対応できると整理した」と説明した。

■異なる次元

 東京工業大学の川名晋史教授(安全保障論)は、今回の取り組みについて「有事を念頭に置いていることは明らかだ」と指摘する。自衛隊の基地が攻撃される恐れがある際、指定した空港・港に航空機や艦艇を避難させる動きが想定されるという。「円滑に寄港、離着陸するための訓練が必要になる。自衛隊の航空機や艦艇を受け入れてきた自治体もこれまでとは次元が異なると考えた方がいい」

 寄港や補給拠点を増やすことは国防上は意味があるとした上で、「有事という論点を後景化するような国の説明は住民から反発を受けるリスクを抱えることになる」と警鐘を鳴らす。

 県港湾空港課の佐多悦成課長は「今後の地元市町への説明会を通じて新たな疑問点が浮上するかもしれない。必要があれば国に問い合わせる」と話した。

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