優しい光守る「ながさきホタルの会」 元会長が2月死去 慰霊のために…命の尊さ訴え続け 

両親の遺影を手に思い出を語る冨工さん=長崎市、宮崎川

 今年もホタルの季節が訪れた。長崎市内の河川では夜の闇に優しい光が浮かび上がる。保全活動に取り組む市民団体「ながさきホタルの会」の調査では、飛翔(ひしょう)が例年より1週間ほど早く、今週末にピークを迎える場所もあるという。
 毎年、多くの市民の目を楽しませ、癒やしてくれるホタルの光。“当たり前の風景”の歴史を振り返ると、長崎市は他都市と歩みが少々異なるようだ。

 15日夜、長崎市伊良林3丁目の冨工由貴さん(61)は友人と一緒に、同市宮崎町の宮崎川にいた。手元には2月に死去した母妙子さん(享年89)と、6年前に亡くなった父則美さん(享年81)の遺影。午後7時35分、薄明かりの中、“1番ホタル”が光を放つ。「ほら、飛んだよ」。由貴さんが両親に明るい声で話しかけた。

幻想的な光を放ち飛び交うホタル=長崎市、宮崎川(1分露光)

 去年は母の日に妙子さんを連れて同じ川を訪れ、「これまでで一番たくさんの光が広がっていた」。妙子さんはいつものように、観賞に来た子どもたちに話しかけ、ホタルの生態を教えていたという。妙子さんはその1週間後、体調を崩し、徐々に弱っていった。
     ◆
 1982年7月23日に発生した長崎大水害。299人もの死者・行方不明者を出し、妙子さんの長男が通っていた市立伊良林小では児童3人、保護者7人が犠牲になった。妙子さんは「慰霊のために」と翌年、PTA役員として「伊良林小ホタルの会」設立を主導した。ホタルの飼育・放流を通じて大水害の記憶をつなぐ活動は今も続く。
 長崎市は伊良林小の活動開始から3年後の86年、「ホタルの里づくり事業」を始めた。生物技術員として市環境保全部(当時)に所属していた小川保徳ながさきホタルの会会長(67)は「ノウハウはなく、全てが手探り。全国の研究大会に参加して、先進地の人から寝る間を惜しんで話を聞いて回った」と振り返る。

「ホタルの会」の活動をふりかえる小川会長=長崎市内

 妙子さんらとも協力し、飼育や増殖方法などを研究。96年ごろまでに地元自治会から要望があった河川に計十数万匹を放流したという。98年、市内各地でホタルの保全活動に取り組む市民団体のネットワーク組織、ながさきホタルの会を創設。妙子さんは2代目会長に就き、小川さんは右腕として支え、生息地の環境整備に尽力した。
 同会は2000年から官民協働の「飛翔(ひしょう)調査」(37河川82地点)も担う。シーズンごとに会員が現地に赴き、目視で確認。16河川は市がホタル情報として発信している。2カ月ごとに河川清掃も実施。市民の癒やしの裏側には脈々と続く地道な活動があった。
     ◆
 治水の観点から、環境保全だけを訴えることが難しい場合もある。ホタルの光を喜ぶ人がいる一方、見学者が増えて迷惑する住民がいるのも事実、と小川さん。「ただ、ホタルを通じ、間違いなく市民の自然環境に対する意識は高まった」と自負を語る。
 初夏に人々を魅了する小さな光。情熱を注いだ妙子さんにとって、どのような光だったのか。由貴さんは言う。「命の尊さ。母は子どもたちにそれをずっと伝えてきました」。川べりに光が一つ、ふわっと近づいてくる。由貴さんは楽しそうに友人にホタルの生態を教えていた。
   
 高齢化が進むホタルの会は新規会員を募集中。一般会員(年会費3千円)、大学生(同500円)、高校生以下無料。賛助会員(企業・団体、1口1万円から)。問い合わせは小川会長(電095.871.2004)。

© 株式会社長崎新聞社