島原の「ぜいたくな」野菜全国へ 若手農業者グループの平和徳さん 直販サイトなどで発信 長崎

豊富な湧水を用いて育てた野菜を手にする平さん=島原市、三会原地区

 農業用水の蛇口をひねると、清らかな水がほとばしった。「こんなに湧水を使い、ぜいたくに育てた野菜はどこにもない。火山の恵みを受けたこの地域のブランド化が僕たちの夢です」
 雲仙山麓の肥えた土壌が広がる長崎県の島原市三会原(みえばら)地区。同地区の若手農業者グループ「Bunkou Farms(ブンコウ ファームズ)島原」発起人の平和徳さん(39)が、日焼けした顔をほころばせた。
 地元農家の3代目。雲仙・普賢岳噴火災害で大火砕流が起きた1991年、島原市立三会小の長貫分校に入学した。降灰を防ぐためヘルメットにマスク、ゴーグル姿で登校していた。
 当時、育てたキャベツなどの農産物は灰をかぶり、廃棄を余儀なくされた。夜になると真っ赤に燃える溶岩ドームを見て「これからどうなるのか」と不安を抱いた。
 県内の大学を卒業後、福岡市で洗剤メーカーの営業職に就いた。しかし「みんなが兄弟のような分校地区の人間関係が自分には合っている」と24歳でUターンして就農した。以来、古里の土地の力を実感する毎日だ。
 畑には、市内最大の湧水地の白土(しらち)湖から、枯れることなくきれいな水が届けられる。火山灰と枯れた草木が長い年月をかけて混じり合った「黒ボク土」は、栄養分に富んでいる。
 収穫したショウガは風味も見た目も良いと評判。ねっとりした食感で味が染みやすい里芋をはじめ、20品目以上が育つ。
 地域の農産物を全国にアピールしようと2020年8月、約20人の仲間と共にネット直販サイト「Bunkou Farms島原」を立ち上げた。平さんがサイトにスイートコーンを出品すると、数百件の注文が殺到した。市場関係者ら知る人ぞ知る存在だった三会原地区の野菜が、全国の消費者にも知られるようになった。
 昨年4月には、企業などと連携しようと「Bunkou Farms島原」を合同会社化した。今年3月、地場スーパー「エレナ」や大手食品メーカー「味の素」と収穫体験会を開いた。県内の親子ら38人が参加し、自慢の土や水で育った白菜の刈り取りを楽しんだ。
 7歳から13歳の3人の子どもを育てている。長貫分校の校区には若い就農者が多い。ここ数年、分校には毎年10人近くの新1年生が入学している。
 「先人が長年にわたり耕してきたように、僕たちも次世代に向け、しっかり地域の価値を発信していきたい」。土地の力を未来へつないでゆく。

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