羽根のない送風機が受注増 下水道工事の安全と効率化へ 長崎・エビスマリンが開発

リング形状のHAST(手前)を持つ中野社長。マンホールの穴を再現した台上に載っているのが、軽量化したHAST―e=長崎市小瀬戸町、エビスマリンの工場

 環境機器メーカーのエビスマリン(長崎市)が10年前に開発したファン(羽根)のない下水道工事用送風機が受注を伸ばしつつある。昨年、無償モニターとして全国30社に貸与したのを機に引き合いが増加。人手が不足する現場で作業の安全性向上や効率化につながるとして、国内外で年間100台の売り上げを目指している。
 一般的な送風機はファン式で、本体につないだホース形状のダクトをマンホールに差し込み、下水管内に空気を送り込む。開口部から作業員が出入りしたり、資材を搬出入したりするたびに送風を止め、ダクトを取り外さなければならない。その間、換気が滞り、酸欠や有毒ガスによる事故リスクが高まる。
 これに対し同社の「ホールエアストリーマ(HAST)」は本体がリング形状なのでマンホールの開口部をふさがず、送風中でも出入りや搬出入が可能。1人で設置でき、作業の効率化や緊急避難の迅速化につながる。複数のノズルから圧縮空気を吹き出し、その気流でマンホール内の空気の圧力を低くして、さらに大量の空気を送り込む。本体は作業員が昇降する際の手すりにもなる。
 価格は65万~75万円。軽量化した「HAST―e」と合わせて約360台を販売した。さらにてこ入れを図ろうと、共同開発した東京都下水道サービス(東京)を通じて無償モニタリング調査を企画。半導体不足もあって募集枠を30社に絞ったが、国内最大の下水道展(日本下水道協会主催)でPRし、エビスマリンの中野浩康社長は「反響があり、ニーズを掘り起こせた」という。供給体制も受注から3カ月待ち程度まで改善した。
 同社によると、全国的に下水道インフラの老朽化が進み、近年は内水氾濫(はんらん)による浸水被害が多発し、下水道の補修ニーズは増えている。一方で、現場作業員が不足し、工事での死傷事故は絶えない。「作業の安全性を向上し、人手確保につながれば」と中野社長。
 下水道規格が同じ台湾や韓国にも販路がある。ほかにも貯水タンクや船舶のバラストタンクなどさまざまな密閉空間での活用が期待され、実際に問い合わせがきている。

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