チョチキタム遺跡は、中米グアテマラのヤシの木が茂る熱帯雨林の中、落ち葉と石の塊に埋もれた場所にある。これまでほとんど知られていなかったこの遺跡は、考古学的な大発見が起こるような場所にはとても見えないかもしれない。ましてや、長い間、研究者たちを悩ませてきた闇の時代の手がかりが見つかるとは、誰も考えなかったはずだ。
しかし、それが現実になった。この場所で、翡翠(ヒスイ)を組み合わせて作ったミステリアスな仮面が発見されたのだ。これまで知られていなかったマヤの王のものだと考えられている。(参考記事:2024年3月号特集「ベールを脱ぐ古代マヤ」)
この発見から、1700年近く前の古典期初期のマヤ文明における篤い信仰と王位継承の実態が浮かび上がってくる。それだけでなく、この時代のマヤの王族が、マヤよりもさらに強力なメソアメリカの王朝の支配下にあった可能性があるという説の信憑性を高めそうだ。
「この点に関しては、さまざまな説があります」と話すのは、考古学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるフランシスコ・エストラーダ゠ベリ 氏だ。「この仮面によって、マヤの歴史に関する古い解釈が葬り去られる日はますます近づくことでしょう」
王のピラミッドと棺の発見
チョチキタム遺跡とその歴史は、時の経過による荒廃と深い熱帯雨林にはばまれて、長い間謎に包まれていた。遺跡があるペテン県は、グアテマラ北東部に位置する低地帯で、メキシコとベリーズに挟まれている。遺跡自体は20世紀初頭から知られていたが、マヤ文明とのつながりについては、ごく最近までわかっていなかった。(参考記事:「マヤ人とは何者だったのか? 古代文明の謎を解き明かす」)
理由のひとつは、遺跡ができた年代にある。マヤ古典期は紀元250年から900年ごろで、マヤ文明の最盛期と重なる。しかし、この時期の文献はほとんど皆無で、栄光のほとんどは盗掘によって失われてしまった。
実際、チョチキタムも盗掘者の餌食になっていた。2021年に、レーザー光線による測距技術である「ライダー(LiDAR)」を使った調査では、遺跡の中心である王家のピラミッドと思われる建造物に、盗掘用のトンネルが掘られていたことがわかった。しかし、エストラーダ゠ベリ氏と同僚のブハニー・ジロン氏は、盗掘者たちが見逃した場所があることに気づき、発掘調査を行った。