関節が柔らか過ぎる難病エーラス・ダンロス症候群、本当にレア?

症状が多様で13もの型、「誤診が多い」ため患者はもっと多いとの指摘も

2024.03.07
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
エーラス・ダンロス症候群は、皮膚、関節、血管壁などの結合組織に影響を及ぼす遺伝性疾患で、13もの型がある。過剰に柔軟な関節は、最も一般的な症状のひとつ。(PHOTOGRAPH BY LIA, ALAMY STOCK PHOTO)
エーラス・ダンロス症候群は、皮膚、関節、血管壁などの結合組織に影響を及ぼす遺伝性疾患で、13もの型がある。過剰に柔軟な関節は、最も一般的な症状のひとつ。(PHOTOGRAPH BY LIA, ALAMY STOCK PHOTO)
[画像のクリックで拡大表示]

 米ボルティモアの医師アリッサ・ジングマン氏(41歳)の場合、膝蓋骨(しつがいこつ、いわゆる「膝のお皿」)の脱臼と慢性的な痛みは幼少期に始まり、19歳までにはすでに2度の整形外科手術を受けていた。さまざまな困った症状の原因について明確な診断がつかないなか、ジングマン氏は自身の経験の方を疑い、心配のし過ぎがよくないのではないかと悩みながら、痛みを押して医学部に通った。「長年の間、私は自分が常に痛みに苦しんでいるという事実を、恥ずかしいことのように感じていました」と氏は言う。

 しかし、ジングマン氏は長年苦しんだ末、2007年になってようやく「エーラス・ダンロス症候群」との診断を受けた。体の結合組織(組織同士を結びつける役割を果たす組織)に必要なコラーゲンをつくる能力に影響を与える遺伝性疾患だ。

 こうした経験をしているのはジングマン氏だけではない。エーラス・ダンロス症候群は、異常に曲がる関節から奇妙な傷跡、慢性的な疲労に至るまで、さまざまな健康問題を抱える人々の間で大きな注目を集めつつある。多岐にわたる症状の背景と、なぜ診断と治療が難しいのかを解説する。

エーラス・ダンロス症候群とは

 エーラス・ダンロス症候群は20世紀初頭、デンマークの医師エドバート・エーラスとフランスの医師アンリ・アレクサンドル・ダンロスによって初めて報告された。さまざまな症状と重症度があり、現在では13種類の型に分けられる。単に「エーラス・ダンロス」あるいは「EDS」と呼ばれることも多い。

 エーラス・ダンロス症候群は、皮膚から骨格、内臓に至るまであらゆる部位に関わっており、その症状は不快に思う程度から生命を脅かすものまでさまざまだ。ほとんどの型は、柔軟過ぎる関節と、伸びやすく滑らかでもろい皮膚を特徴とする。最も一般的な型である「関節過可動型EDS(hEDS)」は、関節の不安定性、脱臼、関節痛、疲労を伴う。

 そのほか、たとえば型の一つである「脆弱角膜症候群(BCS)」では、患者の角膜が薄く、もろくなり、また「歯周型EDS(pEDS)」では患者の歯を支える組織が破壊される。(参考記事:「スティッフパーソン症候群とは、セリーヌ・ディオンも患う難病」

診断が下りないわけ

 ジングマン氏の経験は例外的なものではない。早期診断が重要であるにもかかわらず、患者は通常、症状が現れてからエーラス・ダンロス症候群の診断が下るまで数年から数十年待つことになる。英国ウェールズで行われ、2019年に発表された研究では、診断まで平均14年かかることがわかっている。また、28年以上かかったケースも患者の4人に1人に上ると指摘している。

 誤診もよくあるうえ、性差による影響もある。上記の研究では、男性の方が女性よりも平均8.5年早く診断されていることがわかっている。

 多くの場合、関節の問題や痛み、疲労は、単なる始まりに過ぎない。エーラス・ダンロス症候群は、体位性頻脈症候群(POTS)、消化器疾患、睡眠障害、不安障害といったほかの病気を伴うことが多い。(参考記事:「立ち上がると動悸、めまい…コロナ後に増えた病POTSの「誤謬」」

次ページ:患者の割合は?

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
会員*のみ、ご利用いただけます。

会員* はログイン

*会員:年間購読、電子版月ぎめ、
 日経読者割引サービスをご利用中の方、ならびにWeb無料会員になります。

おすすめ関連書籍

人体ヒストリア その「体」が歴史を変えた

まったく新しい視点で歴史上の人体をユーモアたっぷりに「解剖」する、82の知られざる秘話、トリビア、エピソード集。

定価:2,530円(税込)

おすすめ関連書籍

医療革命 あなたの命を守る未来の技術

新型コロナウイルスのワクチン開発や、遺伝子解析技術を使って個々の患者に合わせた治療を行う精密医療など、今、医療の世界で起きている様々なブレイクスルーを解説。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:1,540円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加