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宇宙開発と地域振興への“推進力”…「宇宙港」の現在地

宇宙開発と地域振興への“推進力”…「宇宙港」の現在地

今夏完成予定の小型人工衛星ロケット発射場LC-1(完成予想図。大樹町)

世界で宇宙開発が進む中、カギとなるのが宇宙空間に衛星などを運ぶ輸送技術だ。日本でも新型ロケットの開発が産学官で加速しているが、射場は限られる。一方、新たな射場や将来の宇宙旅行など人もロケットで輸送することを見越し、地域一体で宇宙港開発の検討が進んでいる。産業界の宇宙分野への進出が増えている中で、国内に宇宙港を整備することはビジネスの拡大にもつながる。(飯田真美子、札幌・市川徹、西部・三苫能徳)

有人輸送見据え開発進む 事業化へ法改正カギ

宇宙開発の促進には衛星や探査機を数多く打ち上げ、宇宙空間での活動域を広げることが重要だ。そのため各国でロケットや射場の開発が進んでいるが、政府だけでなく企業が主導する打ち上げサービスも増えている。内閣府によると、2023年のロケット打ち上げ回数は世界全体で10年前の13年と比べて約2・8倍の212回で、そのうち米スペースXが96回を占める。ただ打ち上げ回数よりも需要が上回り、数年単位で待機している顧客も多いのが現状だ。そのため、宇宙輸送手段の拡大が課題となっている。

国別のロケット打ち上げ回数

近年は衛星などの機器を運ぶだけでなく、一般の人が宇宙空間に行く「宇宙旅行」や高度100キロメートル付近に数分間滞在して帰還する「サブオービタル旅行」も身近になりつつあり、有人宇宙輸送を可能にする宇宙船の開発が進んでいる。こうした背景の中で宇宙空間に物資やヒトの輸送が可能で、地域一体で運用する宇宙港を設置する動きが注目されている。

日本では宇宙港の建設事業は少ないが、政府の後押しはある。3月に策定した宇宙分野で今後日本が強化すべき技術をまとめた「宇宙技術戦略」にも射場・宇宙港の機能強化が含まれ、研究開発に資金供給される見込み。政府の宇宙政策委員会では「宇宙港の建設について、米フロリダ州では政府主導で税制優遇や企業誘致を進めている。日本でも同様の取り組みをすべきだ」との意見もある。

一方、官民で構成されるサブオービタル飛行に関する協議会では、同飛行の事業化を早期に実現すべく宇宙活動法の改正を求める声が強くなっている。現在の制度では周回軌道への衛星の打ち上げ行為のみが許可されているが、将来の有人宇宙輸送を見込むことを考慮した内容を要望している。現段階では宇宙港の政府の後押しが少ないが、今後増える可能性は高い。

こうした宇宙港の設置には地域との連携が最重要事項だ。宇宙飛行士の山崎直子さんは「宇宙港は宇宙と地上をつなぐまちづくりそのもの。地方創生の観点でも重要」と強調する。射場にするための土地管理だけでなく、ロケット打ち上げによる周辺への影響を自治体や住民に理解してもらう必要がある。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が所有する内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)や種子島宇宙センター(同南種子町)の設置時は、関係職員らが何度も現地に足を運んで説明を続けたことは有名だ。

内之浦宇宙空間観測所での打ち上げ(JAXA)
特に両者を含めて射場は海側に作られることが多く、地元の漁業組合との交渉は必須。種子島でのロケット打ち上げ時は、同県を含む関係5県の漁業者への申し入れを実施している。こうした交渉を続けることで小型の固体燃料ロケット「イプシロン」や大型基幹ロケット「H3」などを打ち上げられ、現在の日本の宇宙開発を先導する輸送技術を長年引き継いでいる。だが鹿児島県に頼ってもいられない。政府だけでなく、民間主導でロケット開発や宇宙港を作ることが日本の宇宙開発の促進につながる。

日本、民主導で活発化 【北海道大樹町】衛星発射場を運用/【沖縄宮古島】空港を玄関口に

現在、世界では20カ国以上が宇宙港を運用・検討しており、日本では民間や自治体主導で4カ所が動きを見せている。最近ではスペースワンの小型ロケット「カイロス」が和歌山県串本町の射場「スペースポート紀伊」から打ち上げるといった話題もあり、宇宙港が一般にも知られる存在になった。

国内の民間ロケット・往還機開発
その中でも1985年から宇宙のまちづくりを宣言し、進めてきたのが北海道大樹町だ。同町の宇宙港建設計画は「北海道スペースポート(HOSPO)」を軸に進み、24年は念願の施設が二つ完成する予定だ。一つはすでに運用している1000メートルの滑走路を300メートル延伸し、利便性の向上を目指す。もう一つは観測用ロケットの射場に隣接して人工衛星用発射場「LC(ローンチ・コンプレックス)―1」を今夏にも完成させ、本格的な射場の運用を進めたい考えだ。

HOSPOを運用するスペースコタン(北海道大樹町)は「計画は順調だが、建設資材の高騰で先行きの見通しが難しい」と懸念を示す。順調に進めば、台湾の宇宙企業が24年中にもHOSPOから準軌道ロケットを打ち上げる。日本の民間企業で初めて宇宙空間に到達した商業ロケット「MOMO」を開発したインターステラテクノロジズ(同)も小型衛星専用のロケット「ZERO」の開発を急ぐ。

沖縄県宮古島市でも下地島空港でPDエアロスペース(名古屋市緑区)が宇宙港の実現を目指している。同社は有人宇宙旅行を目的とした宇宙飛行機の開発と運用を通じて、島を宇宙との玄関口にする構想を抱く。沖縄県が採択した同空港の利活用策の一つだ。現在は機体の実証拠点として運用中で、23年に無人機の飛行試験を初実施した。駐機場を提供するテナント事業、飛行試験や宇宙港を呼び水とする観光事業も進める。24年度は研究開発の推進とともに、一般向け見学コースも擁する格納庫の新設に乗り出す。

下地島空港での宇宙機用ハンガーの建設イメージ(滑走路の右側手前の灰色部。PDエアロスペース/三菱地所)
有人飛行が始まれば乗客となる富裕層の来島による経済効果にも期待をかける。大手、地場など56社のコンソーシアムも走っており機運は高まっている。県は採択事業者に場所と機会を提供するほか側面的に支援する。宇宙港関連では空港構内道路を整備中だ。宇宙と地域振興に向けた“推進力”として事業を後押ししている。

日刊工業新聞 2024年5月15日

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