医師たちの愛情に助けられたタビ

 先月、初めて犬のタビを連れて旅に出た。阿蘇小国はまだ肌寒かったが、360度を見渡せる外輪山の丘の上で、犬も人も心身自由に遊んだ。タビの異変に気づいたのは、その愉たのしさの余韻が残る翌朝だった。おなかが大きく膨れている。急ぎかかりつけの動物病院へ連れて行くと、胃捻転で命の危険があるといい、緊急の大手術となった。急転直下である。

 術後に亡くなる確率は高く、タビの鳴き声を聞いた瞬間、心がこれほど喜ぶのかと自分で驚いた。天を仰ぐと青空高くに小さなツバメが羽ばたいていた。毎日会いに行くたびに力なくも尻尾を振り、僕らを信愛の目で見つめたタビは、驚異の回復力で7日目に退院した。

 何事もない普段の平穏な日々こそが幸せだと気づかされ、今を一緒に暮らせることのありがたさを思った。そして同時に、人生が無常であり絶えず変化していくということもまた、私たちに大切なことを気づかせ成長させるに必要なギフトなのだと知った。

 済んだ過去を悔やまず、未定の未来に期待せず、いま問われていることに精いっぱい取りかかり、何が起こってもすべてよし。そんな思いに至りながら、新しい僕らの旅が始まった。(農家カフェ店主 小野寺睦)