全国トップクラス!トマト、チーズ、パスタの大消費地さいたま市 イタリアン、フレンチのレストラン200軒以上 そこで食材となるヨーロッパ野菜、市内農家が注目 生産開始し極めた高品質、好評で全国へ流通

花ズッキーニのフリットなど、旬のヨーロッパ野菜たっぷりのワンプレート(左)=さいたま市岩槻区本町のヨロ研カフェ

 4月下旬の早朝5時。埼玉県さいたま市岩槻区釣上の畑で、森田剛史(42)は、ヨーロッパ野菜の花ズッキーニの収穫作業を行っていた。イタリアなどでは一般的な食材で、黄色い花の部分に詰め物をし、揚げたり炒めたりする。朝早く開花し、すぐしぼんでしまうので、7月末までの収穫時期は時間との戦いが続く。

 森田がヨーロッパ野菜を手がけるようになったのは2013年秋。以前はコマツナを生産していたが、大規模農家との価格競争に巻き込まれ厳しい状況に陥っていた。そんな時、さいたま市から「ヨーロッパ野菜を作ってみないか」と声をかけられ、若手の生産者仲間数人で手を上げた。

 なぜ、さいたま市でヨーロッパ野菜なのか。

 さいたま市はトマト、チーズ、パスタの1人当たりの消費額が国内トップクラス。イタリアンやフレンチのレストランは200軒以上もある。しかし、本場のヨーロッパ野菜はなかなか手に入らず、空輸した品は高価格で鮮度が落ちるといった悩みがあった。

 「地元でヨーロッパ野菜を生産できないか」。イタリアンレストランを営むノースコーポレーション、トキタ種苗、関東食糧と行政などが連携し、13年春に「さいたまヨーロッパ野菜研究会」(ヨロ研)が発足。若手農家に呼びかけ、ヨーロッパ野菜の地産地消の取り組みが始まった。

 気候も違い、ノウハウもなく始めた栽培。森田が最初に作ったのは「チーマディラーパ」というイタリアの菜の花。「名前も聞いたことがない野菜だった。いつ芽が出るのか、どのタイミングで収穫すればいいのかも分からなかった」と苦笑する。

 シェフたちやトキタ種苗のアドバイザー、行政の農政担当者らの助言を受けながら、試行錯誤を続けた。ロマネスコ、ラディッキオ、ダビデの星など、新しいヨーロッパ野菜に挑戦していった。

 収穫した野菜は、森田が代表取締役を務める農業法人「フェンネル」が買い取り、県内の野菜専門卸問屋や大田市場(東京都中央卸売市場)を通じて全国に流通。現在、ヨロ研に参加している農家は約20軒。年間約70種類のヨーロッパ野菜が出荷され、県内外約1200軒のレストランで使われている。

 野菜を確実に流通させる仕組みと、おいしく料理してくれるシェフ、喜んでくれる消費者の存在がヨーロッパ野菜を支えている。森田は言う。「新しい食文化として根付いてほしい。いつかヨーロッパ野菜が当たり前にあるものにしたい」

■新たな食文化つくる

 岩槻人形博物館に併設されたにぎわい交流館いわつき1階の「ヨロ研カフェ」。季節ごとのヨーロッパ野菜を年間70~80種類扱った料理を提供している。

 人気メニューは「ヨロ研野菜たっぷりのワンプレート」。ケール、スカーレットフリルなど野菜8種のサラダに、カーボロネロやコールラビなどが入ったミネストローネが付く。今の時期は「花ズッキーニのフリット」。アンチョビとモッツアレラチーズを花ズッキーニに詰めて揚げたイタリアの伝統料理だ。総料理長の新妻直也(48)は「森田さんの花ズッキーニのクオリティーはものすごく高い」と評価する。

 新妻はヨロ研カフェ発足のキーパーソンとなった一人。「イタリア料理というとピッツァやパスタというイメージ。でも、実は野菜と豚肉の国。郷土料理を勉強すると本場の野菜は不可欠」と言う。だから、ヨーロッパ野菜の生産者の畑には足しげく通い、料理人の視点で収穫時期などのアドバイスをしてきた。新妻は「全部買うから作ってくれ、チャレンジしてくれ」と言い続けてきたという。

 ヨロ研カフェでは料理の提供だけでなく、旬のヨーロッパ野菜の販売や不定期で料理教室も開催。ヨーロッパ野菜による新しい食文化をつくっている。

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