科学絵本「みずとは なんじゃ?」 かこさとしさんの遺志継ぎ出版

吉岡潤 (2018年11月9日付 東京新聞朝刊)
 絵本作家の加古里子(かこさとし)さんが、5月に92歳で亡くなる直前まで制作に携わった科学絵本「みずとは なんじゃ?」(小峰書店)が8日に出版された。加古さんが文を書き、絵本作家の鈴木まもるさん(66)が加古さんの下絵を基に絵を描いた。水の性質や働きを分かりやすく説く内容で、加古さんの長女鈴木万里さん(61)は「理想的な絵本が出来上がった」と喜んでいる。
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作品を手に笑みを見せる鈴木まもるさん(左)と鈴木万里さん=神奈川県藤沢市で

「科学の入り口にいいテーマ」下絵描いていた加古さん 

 加古さんは子どもが楽しみながら科学を学べる絵本作りの先駆者だった。かねて「身近でありながら特別な性質を持っている。科学の入り口として、いいテーマ」と水に着目。文章を練り、下絵を描きためていた。しかし視力が落ち、3月に編集者の提案で鈴木さんに絵を頼むと決めた。

 鈴木さんは子どものころから加古さんの絵本が好きだった。自分の作品を贈って、ほめ言葉が並ぶ手紙をもらったこともある。編集者から連絡を受け同月末、初めて加古さんに会った。見本を作成し、2週間後に2度目の打ち合わせ。急ピッチで制作が進む中、加古さんは寝たきりとなり、間もなく最期を迎えた。

水の特性「にんじゃ」「やくしゃ」…子どもに伝わる言葉で

 幼い子どもに伝わるように加古さんが腐心した文章は簡潔だ。水蒸気や氷に姿を変える水の特性を「にんじゃ」や「やくしゃ」に例え、人間や動植物が生きていくために水は「りょうりにん」や「いしゃ」のような働きをするとつづる。

 絵については「加古がまもるさんに乗り移った。意をくんで下絵を膨らませてくれた。オマージュになっている」と万里さん。加古作品を想起させる要素が随所に盛り込まれ、加古さん自身がコックや医者になって登場する。鈴木さんは「描きたいものを描いた。自然に出てきた感じ。プレッシャーはあったが、苦労はなかった」と話す。

 自らを大工に例えて、「園長先生が新しい幼稚園を建てようとして、大工が希望に沿うように建て始めたら施主が亡くなってしまった」と表現。「でもそこで子どもたちが元気に育つと思えば、天国で園長先生も喜んでいただけるかなと」

 万里さんは「ほんとに素晴らしい絵で、加古は『しゃっぽを脱ぎます』と言うだろう」と称賛。「加古がのこしたものをどう受け止めて、つないでいくか。いい1歩が踏み出せたと思う」とほほ笑んだ。

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