『ハゲタカ』真山仁が語る・ニッポンの危機と小説を書く理由

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大ベストセラー『ハゲタカ』シリーズをはじめ、小説を通じて日本経済や社会への提言を続けている小説家・真山仁氏が、4月10日(水)放送の「日経スペシャル 未来世紀ジパング」(毎週水曜夜10時)に出演。『ハゲタカ4.5/スパイラル』を原作とするドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」(4月15日月曜夜10時スタート 主演・玉木宏)も話題となっている。

そこで「テレ東プラス」では、真山氏にインタビュー。今、自身が注目している世界情勢やニュースについて熱く語ってもらった。

激動の時代にリアクションが悪い日本



――世界情勢や経済に精通しておられる真山さんですが、今一番注目している世界の動きは?

「たくさんありますが...一番気になるのは、ヨーロッパからアメリカ、世界中がこれだけ変動しているにも関わらず、日本が反応できていないことに対する心配です」

――なぜ今、世界はこんなに動いているのでしょうか?

「21世紀に入って18年以上経ち、ようやく20世紀のツケを払わされているのかなと。アメリカやヨーロッパが弱くなる一方、新興国がどんどん勢力を伸ばしてきているけれど、旧態依然としている欧米の人たちは自分の地位を守りたい。そんな中、トランプ大統領をはじめとした、今までなら考えられないような非常識な人たちが権力を持ってきたことで、余計戸惑っているのかなという気はしますね。100年スパンで見ると、そろそろ主役が交代する時が来ているはずなんですけど、今の主役たちが降りたくないと暴れている感じがある。圧倒的に強い国がなくなったんだと思います。

急激に力をつけた中国ですら、ほころびがいっぱいある。例えば、北朝鮮に対して、それほど厳しい姿勢で対処しているようには見えないし、アメリカに対しても、大人の交渉をするか今まで通り強気な態度で押せばいいのに、完全に足元を見られていますよね。かといって、アメリカの今の状況がいいかというと、相当虚勢を張っている。極端なことを言うと、帝国主義から始まった欧米中心主義が揺らぎ始めている中で、生き残る者としがみついている者の間で摩擦が起きてるのかなと、そんな印象があります」

――経済だけでも世界ではいろいろな動きが出てきています。

「20世紀の終わり、日本で言うと山一証券が破綻した時期は、経済が主役になった時代でした。しかし平成の後半から、自由主義、資本主義の仕組みではうまく回らなくなってきた印象があります。"経済さえ豊かであれば国内が安定している"というのは、ここ10年ぐらいで当てはまらなくなってきていますよね。

今、米中で起きていることは確かに貿易戦争ですが、国際政治の視点で言えば、明らかに違う価値観をお互いがぶつけ始めていると思います。1940年代の情勢に近いような...。どこかで衝突して弾けないと、1回リセットできなくなっているような嫌な感じがあります。そういう意味では、日本は世界情勢を注視する必要があるでしょうね。リアクションが悪すぎる。元々日本人は外国のことに興味がない人が多く、政府のあの鈍い反応にすら危機感を持っていない。メディアの責任でもありますが、もっと国際政治に対してちゃんと発言するべきです。米朝会談をベトナムでやっているというのに、日本は遠くから拉致問題の話だけをしていて、韓国も置いてきぼりをくらっている。気付いた時には『新しいルールでこうなったので、一つよろしく』と言われて途方に暮れるのではないかと...。日本のリアクションの悪さがすごく心配です」

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――「未来世紀ジパング」では、ニュースではあまり伝えられない世界情勢と日本の関係を伝えていますが、ご出演されて番組の印象はいかがですか?

「私は普段、テレビをほとんど観ません。お声かけいただいてから、どういう番組なのかをDVDで拝見しまして、"こんなに真面目に国際問題をやっているのか..."と、正直驚きました。もっと極端なことを言うと、こういう問題にお金と時間と人を投入して形にするのは、NHKしかないはずなのにテレビ東京がやっているのかと。ただ、おそらくNHKだったら全然違うアプローチをするでしょう。『ジパング』は、難しい話をスタジオで分かりやすく解説しますよね。国際政治に興味がない人が多いので、それこそが大事なことだと思いました。

多くの方は、私が世界中の情報を時々刻々と取り入れていると思っていらっしゃいますが、私も関心がないことにはあまり耳を傾けられないこともある。番組に呼ばれた時は、あえて下調べしないようにしています。VTRから学ぶことも多く、頭の中にスパークが起きて『我々日本人は、思っていた以上のことに遭遇しているんだな』などと感じます。知っていることと知らないことが半々くらいで、私の認識が古いまま止まっていたことに気付かされることも。毎回、勉強させていただいています。

アウトプットばかりしていたらいずれ書けなくなりますし、小説家にとっては、どのようにインプットしていくのかも大切な作業なんです。この番組では、想定していなかったインプットができる。おそらく、"真山向きのテーマだから"と呼んでくださっているんでしょうけど、こちらからすると『なんで呼ばれたんだろう?』という時もあるわけです(笑)。

もう一つ。私は日々、自分が伝えたいテーマについて関心のない方に、小説という媒体を使っていかに関心を持ってもらうかということを一生懸命考えているんですけど、共演している方の価値観や発言を伺うと、自分に足りないものが見つかることがあります。それは、いつもと違うフィールドに出ているからこそ得られるのであって、大変な刺激になっています」

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真山氏が考える「中国と日本における大問題」



――これまでご出演いただいた中で、特に印象深かった回をお聞かせください。

「最初に呼んでいただいたのは、「中国の一帯一路」の回でしたね。『危機か?チャンスか?揺れる"一帯一路"』(2018年6月20日放送 ※一帯一路とは中国が推し進める経済圏構想)"一帯一路をこんなに真面目に追いかけるとは"と驚かされました。結果的には、このシリーズに中国の姿勢が収れんされていると思います。世界の状況もよくおさえているので、一帯一路を取り上げる回は、いつも私にとって重要な要素があります。『インド洋を巡る一帯一路』の回では、日本政府ではなしえないことを、番組の中で日本の企業が巧みに入り込んでいるのを目の当たりにしたことは、私の中で大きかったですね」

zipang_20190327_04.jpg一帯一路の最前線インド洋へ向かう護衛艦「かが」

――収録中、真山さんの視点やご意見はいつもこちらの「想定外」で、番組としても刺激になっています。

「小説もそうですが、私は多くの人が持つ視点だけでなく、別の視点や選択肢を増やすことが重要だと思っています。一方的な思い込みだけで物事を見ると、非常に危険。例えば、中国では日本のことを好きな人が4割もいるのに、日本では中国のことを好きという人が1割という結果が出ています。実はこれは、"向こうが4割も歩み寄ってきているのに、なぜこちらは1割なんだ"という大問題なのです。

私は、こうした日本人が当然だと思ったり、見過ごしがちなことを止めるために小説を書こうとしています。自分にとって常識だと考えていることを疑うきっかけを、小説で体験してほしい。ただし、小説は私自身の言葉ではありませんから、伝えるために様々な工夫が必要ですが、『ジパング』では、直接発言することができますよね。同時代を生きている日本人として、"こんなの放っておいていいの?"と言える場をいただけていることに感謝しています」

――真山さんは、小説のテーマをどのように選んでいるのでしょうか?

「私はまず、人がやらないことしかやりたくないんですよ。元記者なので、警察小説が流行っていた頃、ずっと『警察小説を書かないか』と言われていましたが、これだけたくさん警察小説を書く人がいて、後から入るのは嫌でした(笑)。そこで、『東京地検特捜部を取り上げたらどうか』と提案して書き上げたのが、テレ東で『巨悪は眠らせない』(2016、17年)としてドラマ化された『売国』『標的』でした。

4月10日(水)に放送する『ジパング』のテーマは"中国は敵か?味方か?"で、スタジオでは"中国に日本の会社を買われるのは嫌だ"という話も出ましたが、そう思うのが日本人の心理というものなのでしょう。だからこそ私は、"そんなことはないよ!"という人たちのために、『レッドゾーン』(「ハゲタカ3」)で、"日本を代表する自動車企業が買われたらどうする?"という話を書きました。『ありえない』と言われますが、お金があれば何でも買えるというのが資本主義。私は、その"ありえないこと"をずっと探しています」

(聞き手・吉田広「未来世紀ジパング」ディレクター)

インタビュー後編は、4月10日(水)夕方5時公開。日本企業が抱える問題について、真山氏とともに考えていく。

【真山仁 プロフィール】
1962年、大阪府生まれ。1987年に同志社大学法学部政治学科を卒業し、中部読売新聞(のち読売新聞中部支社)入社。1989年に同社を退職し、1991年フリーライターに。2004年
『ハゲタカ』(ダイヤモンド社)でデビューし、著書多数。2018年『シンドローム』(講談社)、『アディオス! ジャパン 日本はなぜ凋落したのか』(毎日新聞出版)を出版。

現在、無料見逃し配信サービス「ネットもテレ東」では、

「未来世紀ジパング」(※共に真山仁・出演回)
●2018年6月20日放送「危機か?チャンスか?揺れる"一帯一路"」
●2018年11月7日放送「一帯一路VSインド太平洋 日中印の"新たな三角関係"」
(2019年4月3日夜11時59分まで)

スペシャルドラマ(原作・真山仁「売国」『標的』)
●2016年10月5日放送「巨悪は眠らせない 特捜検事の逆襲」(主演・玉木宏)
●2017年10月4日放送「巨悪は眠らせない 特捜検事の標的」(主演・玉木宏)を配信中!
(2019年4月15日月曜夜9時59分まで)

そして次回、4月3日(水)夜10時放送の「未来世紀ジパング」は...。

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【新たな"ニッポン流"が世界へ!】
日本のコメから作った米粉パンが、世界にも広がろうとしている。追い風となっているのは、世界的な「グルテンフリー」食品の盛り上がり。米粉だけでもちもちのパンを作れる「米粉」を開発した鹿児島の小城製粉は、すでにドイツに進出。その評判とは...?

一方、女性の靴の悩みを解決するために、「足」の専門医と日本の靴職人が、タッグを組んでハイヒールを開発!日本のデパートに続いて、3月からニューヨークでの販売を開始した。日本の靴業界が衰退の一途をたどる中、輸出は異例のこと。「医療×職人技」の異色のコンビが生んだ日本の靴が、世界に挑む。

そしてもう一つの"ニッポン流"挑戦の舞台は、アフリカのケニア。今や「日本食といえば寿司」というほど寿司が世界的に浸透する中、日本食レストランをオープンし奮闘する男性が。海から500キロの内陸の地ナイロビで、新鮮な魚をどうやって入手し厨房まで運ぶのか...。
新たな"ニッポン流"で勝負する人々を追う!

※このページの掲載内容は、更新当時の情報です。
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