柿農園を営むブラジルの夫婦が、45日かけて作られる最高峰の干し柿“枯露柿”を学ぶ:世界!ニッポン行きたい人応援団

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、ブラジルの夫婦が初めて来日した様子をお届け!

【動画】ニッポンに行きたい外国人を応援!そこには大きな感動が!

柿農家の秘密兵器に大興奮! 柿博士との出会いも


紹介するのは、ブラジルに住む、「干し柿」を愛するソステネスさんとカロウさん夫婦。

記事画像
ニッポンの伝統的な保存食、干し柿。そのままでは食べられない渋柿を乾燥させると、渋味のもとであるタンニンが抜けて甘みが強くなることから、奈良時代には作られていたといわれ、高級品だった砂糖の代用品としても重宝されるように。今では全国で作られ、主な産地だけで14カ所も。

戦国時代、ニッポンを訪れた宣教師によってヨーロッパにもニッポンの柿が広まり、今ではフランスの一流レストランでサラダやオードブルに使うほど大人気。ブラジルでも日系移民によって伝えられ、日本語と同じ“カキ”という名前で親しまれていますが、干し柿の文化は浸透していないそう。

2人が干し柿と出会ったのは、都心から郊外への移住を決意し、家の下見に行った時。家とセットで売り出されていた農園に、大量のニッポンの柿の木が! その柿で作った干し柿を食べ、あまりの美味しさに感動。自分たちでも干し柿を作りたいと、購入を即決したそう。

とはいえ、価格は干し柿作りの設備も含めて約2400万円と高額。家族や友人の心配を押し切り、購入したのには理由が。

前の家主は日系人夫婦。旦那さんが亡くなり、高齢で跡取りもいないため、日系人向けに30年続けてきた干し柿作りができなくなったそう。そこでソステネスさんとカロウさんは、ブラジルで干し柿を楽しみにしている方たちのためにも伝統を絶やしてはいけないと、農園を引き継ぐ決意をしたのです。

農業経験ゼロの2人は、本やインターネットで干し柿用の柿の育て方から猛勉強。農園で育てている広島県原産の祇園坊は、「幻の柿」と呼ばれる高級品種です。「干し柿作りを始めて3年ですが、ニッポンの干し柿はもっと美味しいはずなので、まだまだ試行錯誤の途中なんです」とソステネスさん。

記事画像
早速、干し柿作りを見せてもらうことに。南半球にあるブラジルでは、柿の収穫シーズンは5~6月。300本の木から採れた約500キロの渋柿を、この時期だけアルバイトを雇い、すべて手作業で皮剥き。続いて、ヘタの下に針金を通し、農園と一緒に譲り受けたハウスで柿を干します。

当初はニッポンと同じように軒先に吊るして干していましたが、昼と夜の寒暖差など、ニッポンの気候と違うせいか、ほとんどの柿が破裂して落下。そこで、温度と湿度が管理できる専用のハウスで干すことに。干している間は温度が下がらないよう、夜通しで2時間おきに暖房の火加減を調節。2人で交代しながら、1週間かけて乾燥させます。

タンニンによる渋みが抜けたところで、今度は倉庫に移して熟成。まろやかな甘味を引き出し、白い粉を吹いたら完成です。出来上がった干し柿は、ピザやケーキにも使って楽しんでいます。

今では干し柿作りを本業にすることを決意し、去年からインターネットでの販売も開始。しかし、ニッポンにはまだ一度も行ったことがない2人には、ニッポンの干し柿を完全には知らないという悩みがありました。自分たちのやり方が本当に正しいのか、ニッポンの職人に学びたいと願っています。

記事画像
さらに、ニッポンでどうしても叶えたい夢が。「今収穫している柿の木は、前の家主が育てたものなので、それが枯れてしまうと干し柿を作れなくなってしまいます。ニッポンで柿の木の育て方から学んで、ブラジルに渋柿、そして干し柿を根づかせるのが夢なんです」。

そんなソステネスさんとカロウさんを、ニッポンにご招待!

向かったのは、奈良県五條市。水はけと日当たりがよく、昼夜の寒暖差が大きいことから柿栽培が盛んな、生産量日本一の柿の町です。

お世話になるのは、この地で約140年の歴史を持つ柿農家「平井農園」。家族経営で2000本もの柿の木を受け継いでいます。「平井農園」の柿は、ミシュラン2つ星の懐石料理店でも使われているそう。今回は、四代目の平井満男さん、久美さんご夫婦に干し柿作りを教えていただきます。

早速、銀峯山の斜面に広がる畑に向かうと、一面に柿の実が! ニッポンで最も多く栽培されている渋柿「平核無(ひらたねなし)」です。

するとカロウさんが、柿の木に全く葉が残っていないことに気づきます。木になっている状態で完熟するのを待つため、葉は全て落ちてしまうそう。完熟させて糖度を高めると、干し柿にした時に、より甘みを引き出せるのです。

一方、熟れすぎると柔らかくなり、皮が剥けず干し柿に使えないというリスクも。完熟かつ皮が剥けるベストの収穫期はわずか数日。そのため、毎年7500個ほど実る渋柿の熟れ頃を見極め、数日で一気に収穫する必要が。

記事画像
収穫は、熟した実を傷めないよう、一つ一つ手作業。両手を使えるため、ハサミより早く収穫できます。テコの原理を利用してもぎ採るコツを教えていただき、2人も収穫をお手伝い。もいだ柿をカゴに集める時は、ヘタが実に当たらないよう、互い違いに入れていきます。完熟した実は柔らかいため、傷がつくとカビの原因に。

ブラジルでの収穫は、完熟でないこともあって、扱いが少し雑だったそう。「今までの柿の扱い方を反省したいです」とソステネスさん。

開始から3時間。手作業で約1000個を収穫できました。木に1個だけ残してある実が気になるカロウさんに、満男さんは「わざと残してる。木守り柿っていいます」と説明。無事に収穫できたことを神様に感謝し、来年もよく実るようにと祈る風習です。
収穫を終えたら、すぐに次の工程へ。「ほぞ回し」という道具で、ヘタ周りの葉だけを取り除きます。この一手間を加えることで、ヘタの周りにカビが発生するのを防ぐ効果が。この時、軸は後の工程のために残しておきます。

記事画像
さらに完熟した柿は、すぐに実が柔らかくなってしまうため、収穫したらその日のうちに皮を剥かなければいけません。そこで使う秘密兵器が、自動皮剥き機。回る柿にピーラーを当てると、あっという間に皮が剥けました。2人は「回ったぞ!」「ブラジルにはこんな機械はないです」と大興奮!

皮を剥き終わったら、吊るし干し専用のクリップを取り付けます。先ほどあえて取らなかった軸に刺せば、取り付けは簡単。ブラジルでは、ヘタの下に針金を刺していた2人、この干し方に驚きます。

満男さんによると、穴を空けて干すと傷がつき、菌が入って腐りやすいそう。柿が破裂したのも、菌の影響で柿が発酵した可能性があるとのこと。「ブラジルで干し柿を広めていくため、これからは衛生面にもっと気を遣っていきます」とソステネスさん。

こうして軸にクリップをつけたら、竹竿に掛けて吊るし干しに。柿同士が触れないよう、隣と高さを変えて干していきます。

ようやく、この日の作業が終了。平井さんご夫婦のお宅で夕食をご一緒させていただくことに。柿料理のレパートリーを増やしたいというカロウさんのために、久美さんが郷土料理の柿の葉寿司や柿なます、干し柿の天ぷらを教えてくださいました。

心づくしの料理が揃ったところで、満男さんが柿仲間を紹介。地元では柿博士として知られる濱崎貞弘さんと、その同僚で柿の研究を行う辻本誠幸さんです。

久美さんの手料理を堪能し、柿の話で盛り上がったところで、濱崎さんから「もし柿のことで他にも知りたいことがあれば、ぜひ私のところに明日来てください」とうれしいお誘いが。

翌日、向かったのは、濱崎さんが勤める農業研究開発センターの施設「柿博物館」。濱崎さんと辻本さんが出迎えてくださいました。

柿博物館は巨大な柿の形をした建物で、歴史から栽培、加工方法まで、柿のことなら何でもわかる施設です。敷地にある研究用の広大な柿畑には、世界中から集められた200品種もの柿が栽培されています。

記事画像
2人が聞きたかったのは、ブラジルで育てている柿「祇園坊」の育て方。しかし、濱崎さんによると、「祇園坊ではないかもしれない」とのこと。 先が尖り、縦に溝が入っているのが祇園坊の特徴ですが、ブラジルのものは先が尖っているものの、溝がありません。
違う品種なのは間違いないようですが、「ここに200品種ありますけど、柿の作り方は全く同じ。安心してニッポンで柿のことを学んでください」と濱崎さん。ソステネスさんも「道は間違ってなかったということですね」と一安心です。

日系人から受け継いだ柿の木の育て方を一から学ぶことがニッポンで叶えたい夢の一つだったソステネスさん。早速、濱崎さんと辻本さんに教えていただきます。

柿は、種を植えれば新しい木は育ちますが、どんな種類の実がなるかわからない性質が。
ほとんどの柿は同じ種類の花から受粉しないようにできており、別の種類と受粉することで、渋柿になりやすいとか。ではどのようにして、自分がほしい品種を育てるのでしょうか。

濱崎さんが教えてくださったのは、接ぎ木と呼ばれる栽培テクニック。土台となる木に別の品種の枝を移植すると、その枝には元々なっていた品種の柿が実るそう。

まずは増やしたい品種の木から枝を取り、10センチほどにカットし、根本を削って尖らせます。次に土台となる木の枝を落とし、切れ込みを。そこに先ほど準備した枝を差し込みますが、外皮の内側にある形成層をピッタリ合わせるのがポイント。細胞分裂が活発な部分をつなぐことで、枝がくっつきやすくなるのだとか。

記事画像
辻本さんのアドバイスを受けながら、ソステネスさんも挑戦。乾燥を防ぐため、ビニールテープで保護すれば接ぎ木が完了。2カ月ほどで枝が一体に。

ソステネスさんが気になったのは、木の所々に刻まれた傷跡。これは環状剥皮と呼ばれる技術です。木の皮を薄皮1枚だけ剥いで傷をつけることで、光合成でできた栄養分が根まで流れていかず、傷の手前にある実に集中。大きくて甘い柿の実になるのです。

使うのは、専用のハサミ。丸い刃を枝に合わせて、表皮だけに浅く切れ込みを入れ、傷に沿って皮を剥けば、環状剥皮が完成。実が最も成長する、収穫の4カ月前に行うと効果的だそう。

記事画像
続いて教えてくださったのは「成木責め」。ナタを枝に当てて「成るか、成らぬか、成らねば切るぞ」「成ります、成ります」と唱えます。「切るぞ」と脅すことで、柿の木に来年の豊作を約束させる風習です。2人も日本語で唱え、豊作を約束させました。

柿についての学びを深めた2人。「今日学んだ知識で、ようやく私たちの悩みが解決できそうです。この経験をブラジルで生かせるよう、夫婦二人三脚で頑張っていきます」「最後に教わった成木責めも絶対に役立てます」と伝え、濱崎さん、辻本さんと握手を交わしました。

「柿博物館」の濱崎さん、辻本さん、本当にありがとうございました!

記事画像
2人は「平井農園」へ戻り、再び干し柿作りのお手伝い。自動皮剥き機を持っていない2人は、ピーラーを使った皮剥きのコツを教えていただくことに。

ブラジルでは、実の縦方向にピーラーを走らせていましたが、久美さんは斜め方向。この方法だと皮がたくさん剥けて早いそう。スピードを比べてみると、久美さんはカロウさんの約半分の時間で完了しました。

完熟の柿は収穫後、できるだけ早く皮剥きをしなければなりません。これもおいしい干し柿作りには必要な技。「ほんの小さな工夫一つでこんなにも早さが違ってくるんですね。私たちの干し柿作りも、まだ思わぬところに改善の余地がありそうです」とカロウさん。

「平井農園」でたくさんのことを学んだ2人。しかし、完成はまだ1カ月以上先のこと。そこで、この先の工程を学ぶため、別の農家さんにバトンをつないでいただくことに。

2人はお世話になったお礼に、ブラジルの織物とお酒をプレゼント。すると満男さんが、柿の収穫カゴと、非売品の柿のポスターをお土産にくださいました。ニッポンの柿もいただき大感激!

記事画像
「何も知らない未熟な私たちを受け入れてくれて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」とカロウさん。ソステネスさんは「たった2日間で、ここまで距離が縮まるとは思ってもいませんでした。長年柿作りを続ける『平井農園』で貴重な経験をして、農業を続けていく自信につながりました」と伝えます。

「お2人は明るくて、夫婦の雰囲気がすごく良くて。いいチームでこれからも頑張っていけると思います。お互いワンチームでタッグを組んで頑張りましょう」と満男さん。最後に皆でハグを交わし、再会を約束しました。

「平井農園」の満男さん、久美さん、本当にありがとうございました!
※このページの掲載内容は、更新当時の情報です。
x
x