心地良い歯触りのシャリ感と高い糖度の甘さで人気を集める「尾花沢すいか」。夏スイカ生産日本一を誇る尾花沢市をはじめとする北村山地域では、主に男性が担い手を務めてきたが、近年、栽培から収穫までを基本的に1人で行う女性が誕生している。男性の仕事場という常識を跳ね返し、スイカ畑でしなやかに躍動する3人の女性を紹介する。
「元ギャルなんで」。そう笑うのは就農2年目の三賀真由美さん(41)=尾花沢市上町2丁目。幼少の頃、大石田町内の実家の小屋には近所の農家がくれたスイカがごろごろ転がり、「食べ放題が当たり前だと思っていた」。スイカ農家が年々減っている現状を見聞きし、「大好きなスイカを自分で作れたら最高」と人材派遣会社を退社。生産者の道に足を踏み入れた。
家族に農家はおらず、つてを頼って市内農園で研修し、昨年に新規就農を果たした。作業は基本的に独力。100メートル近いビニールを張るトンネル設置は通常複数人で行うが、柄の長い掃除道具を使い1人でもひもを張れるよう工夫した。「少し手伝ってもらえば女性にできない作業は何もない。子どもたちにもかっこいい仕事だよって伝えたい」。そのまなざしは力強い。
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同じく就農2年目の五十嵐奈未さん(41)=尾花沢市二藤袋=は元エステティシャン。ストレスで右耳が突発性難聴になり、山形市から夫の実家のある尾花沢に移住した。家業の米作を手伝う傍ら、家庭菜園で始めたスイカ栽培でその楽しさを知った。相手は植物。そこに人間関係の煩わしさはない。つるが伸び、大玉をつけていく過程は「子どもを見ているようで、めんごいなって思うんです」。
昨年25アールだった作付面積を今年は2倍の50アールに増やした。「去年はあっという間に収穫が終わった。今年は楽しさを2倍にしたくって」と笑う。小学2年生と園児の2人の子育て真っ最中のママでもある。「農繁期の土日に子どもを預ける先があれば助かる」。女性が働きやすい環境づくりへ、畑そばへの簡易トイレ設置などの行政支援を望んだ。
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美容師で今季、大石田町内の畑でデビューしたのは加藤望美さん(42)=東根市本丸北2丁目。米農家の父が自らの代で農業を終わらせると聞き、何とか思いをつなぎたいと昨年2月、就農を決断した。研修中、炎天にさらされる夏のつらさを思い知りながらも「いろんな人に手伝ってもらいながらだが、自分のペースで仕事できるのって最高」と魅力を語る。
育つ苗は我が子のようで「頑張れって応援しながら」手塩にかけている。高校生の長男が就農を希望しているといい、「いずれ一緒に農業できたらうれしい。これからもずっとスイカ作りを続けていくつもり」と迷いはみじんもない。「尾花沢すいか」の市場評価は年々高まっており、「苦労した先輩たちのおかげ。全国に誇れるスイカを作りたい」と力を込めた。