大嘗祭へ国費支出は憲法違反か 目的と効果によって判断、県費で靖国神社玉串料は違憲

By 竹田昌弘

 半世紀以上も前の1965年1月14日。津市内で、神社の宮司ら4人の神職による市体育館の起工式があった。神職は神社神道固有の祭式にのっとり、祭場を設けて祭具を使った。市の主催で、神職に対する報償費計4千円、供物料3663円の計7663円が公金から支出された。 

政教分離、限度超えたかかわり許されない

 市議の男性が、起工式は憲法20条3項で禁止されている国・地方公共団体の「宗教的活動」に当たり、宗教上の組織・団体の使用、便益、維持のための公金支出を禁じた憲法89条に反するとして、裁判を起こした。最高裁は77年7月、この裁判の上告審判決で、憲法20条3項や89条から導かれる「政教分離」を判断する際の枠組みを初めて示す。次のような内容(要旨)だった。 

 ①政教分離の原則は、国家(地方公共団体含む)と宗教とのかかわり合いを全く許さないのではなく、かかわり合う行為の目的および効果にかんがみ、そのかかわり合いが相当とされる限度を超える場合に許さないとするものである。

 ②限度を超える場合(=憲法20条3項で禁じられた宗教的活動)とは、目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉などになるような行為をいう 。

 ③②に当たるかどうかは行為の場所、行為に対する一般人の宗教的評価、行為の意図、目的、宗教的意識の有無・程度、行為が一般人に与える効果・影響など諸般の事情を考慮し、社会通念に従って客観的に判断しなければならない。

津地鎮祭訴訟の判決が言い渡された最高裁大法廷。右から3人目は藤林益三裁判長(最高裁長官)=1977年7月13日

 最高裁はこの枠組みに当てはめ、起工式は古来「地鎮祭」として宗教的な起源を持つ儀式だが、一般人の評価などを踏まえれば、目的は着工時に慣習化した社会的儀礼を行うという世俗的なもので、これによって、神道を援助、助長、促進するような効果も認められず、憲法違反には当たらないと判断した。 

 この裁判は津地鎮祭訴訟、判断の枠組みは「目的効果基準」と呼ばれる。愛媛県が81~86年、靖国神社の例大祭などに玉串料や献灯料として計16万6千円を支出したことが裁判となり、最高裁は97年4月の判決で、こちらは憲法違反との判断を下した。目的効果基準に当てはめ、神社の重要祭祀(さいし)に公金を支出する目的が宗教的意義をもつことは免れず、一般人に県が特定の宗教団体を特別に支援しているなどと受け取られ、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認めたからだ。 

大阪高裁「国家神道を助長、促進し違反なのでは」

 14~15日に中心儀式「大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀」が行われた大嘗祭。皇位継承に伴う重要祭祀として、国費の宮廷費から24億4千万円の支出が見込まれている。政教分離原則に反しないのか。最高裁は2002年7月、平成の大嘗祭(1990年)に鹿児島県知事が公費で参列したことについて、目的は社会的儀礼で、その効果も特定の宗教に対する援助、助長などにはならないとして、憲法違反ではないと判断した。ただこれは鹿児島県の公金支出に対する判断であり、宮廷費の支出について、最高裁は判断を示していない。 

「主基殿供饌(すきでんきょうせん)の儀」のため、大嘗宮の主基殿に向かわれる天皇陛下=15日午前0時29分、皇居・東御苑(代表撮影)

 95年3月の大阪高裁判決では、大嘗祭は「神道儀式としての性格を有することは明白」として、目的が宗教的意義をもつことを認め「少なくとも国家神道に対する助長、促進になるような行為として、政教分離規定に違反するものではないかという疑義は一概に否定できない」と指摘している。目的効果基準を当てはめれば、憲法違反となるのではないか。

少なくとも内廷会計、けじめを付けよう

 それを知ってか知らずか、秋篠宮さまは皇嗣となる前の昨年11月の誕生日会見で「大嘗祭は皇室行事で宗教色が強い。それを国費で賄うことが適当か。私は内廷会計(天皇の私的経費)で行うべきだと思う」と述べた。この発言は、天皇の国事行為とされている「即位の礼」などと、皇室行事の大嘗祭とのけじめを付けようという趣旨と筆者は受け止めた。 

53歳の誕生日を前に、紀子さまと共に記者会見される秋篠宮さま=2018年11月22日、東京・元赤坂の宮邸代表撮影)

 津地鎮祭訴訟と愛媛玉串訴訟の最高裁判決には「明治維新以降国家と神道が密接に結びつき、種々の弊害を生じたことにかんがみ、政教分離規定を設けるに至った」と書かれている。政教分離原則が戦前の反省から生まれたことも踏まえると、秋篠宮さまが提案したように、少なくとも大嘗祭の費用は内廷会計から支出し、けじめを付けた方がいい。(共同通信編集委員=竹田昌弘)

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