「ドバイ万博2020」へ準備万端 あいさつ代わりの「ワクチン接種した?」【世界から】

 2020年10月に予定されていたドバイ国際博覧会(万博)は、新型コロナウイルス感染拡大にともない、今年10月に開催が延期されている。今年1月から一部のテーマパビリオンと万博会場を先行オープンするなど準備は万端だ。6カ月の会期中、国内外から約2500万人の来場者が見込まれる大イベントを控え、インバウンド大国ドバイをはじめとするアラブ首長国連邦は、どのような新型コロナウイルス対策をしているのだろうか。(ジャーナリスト、共同通信特約=伊勢本ゆかり)

最初にワクチンを接種したUAEの保険相 Gulf Business© 2020 MOTIVATE MEDIA GROUP

 ▽一気に進めるPCR検査とワクチン接種

 アラブ首長国連邦(UAE)におけるPCR検査の実施率は世界でもトップクラスだ(2020年6月30日付記事「UAEがPCR検査を1日4万件行う理由 人口当たりで比較すると日本の100倍以上【世界から】」https://www.47news.jp/47reporters/4963793.htmlご参照)。英オックスフォード大学と教育慈善団体との共同追跡サイト「Our World in Data」によると、3月5日の時点で100人当たりの総ワクチン接種回数はイスラエルの99回に次ぐ63回で世界2位、イギリスの32回の2倍近い。総接種数は620万回で世界のトップ10圏内だ。UAEは3月末までに成人の50%、年末までに70%の接種率を目指し、今年いっぱいでワクチン接種活動を終了すると発表している。100%でないのは、ワクチン接種が強制ではないからだ。

2回の接種を終えると届けられるワクチン証明書(薬品のロットナンバーを消しています)

 ▽世界で初めて中国製ワクチン承認

 製造元の中国でもまだ臨床試験最終段階であったシノファーム社製ワクチンを、UAEは世界に先駆けて昨年12月に正式登録している。首都アブダビで行われた治験には、120国籍の約3万1000人が参加し、UAEの研究結果として有効性は86%と発表した。

 UAEでは保健省長官などの高官や役人が真っ先にこの治験参加を表明するなど、自ら手本を示すことが多く、地元では概して首長や政府の政治手腕への信頼が厚い。しかし今回は「中国製ワクチン」を接種することへの不安が人々の間で広がった。そこでドバイ首長は、正式登録よりも前にシノファーム社製ワクチンを接種し、SNS上に写真を投稿。ファイザーやアストラゼネカなど欧米のワクチンの到着を待たずに、今すぐ使えるワクチンの接種を住民に呼びかけた。2月末現在、ファイザー社製のワクチンは、優先接種層とされる高齢者や自国民、基礎疾患や中度以上の障害のある人などに制限されている。

 ▽戻りつつあるインバウンド客

 UAEがワクチン接種を急ぐのは、万博の開催だけでなく、インバウンドビジネスの復興が死活問題だからだ。特にドバイ首長国は2019年のインバウンド客が1673万人、GDPの11・5%が観光収入となっており、旅行者やビジネス渡航者が経済回復の鍵を握っている。ドバイは昨年6月から観光客を受け入れ、昨年12月に1200の国や企業が参加した大型テクノロジー見本市GITEX(ジーテックス)、今年2月には食品見本市Gulfood(ガルフード)を例年通り開催。無人検温や3密計測器の設置、マスク着用の徹底(違反者には罰金約9万円)、換気などといった感染症対策を講じた。見本市や展示会を成功させることによって、万博への布石となる実績を積んでいる。

Expo2020 日本館完成予想図©Expo 2020

 ▽強制でなくてもプレッシャー

 市内のクリニックや保健所、大規模展示会場で国籍に関係なく、希望者がワクチン接種を受けられるのもUAEの特徴だ。混雑時には数時間待たされることもあるものの、一度会場に入ると驚くほど手際良く接種が完了し、証明書が手渡される。エミレーツ航空はこのほど、ワクチン接種を完了したスタッフで運航する、世界初のフライトを実現させた。また、ドバイの大手旅行会社では、オフィス内でのワクチン接種を手配し、接種を希望しない社員には2週間ごとのPCR検査結果の提出を求めている。接種は強制ではない、としながらもこの程度のプレッシャーがかけられる。なおこの会社では、早期の旅行客の回復を見越して、多くの外国人従業員を帰国させていない。

地上スタッフも含めて全員がワクチン接種済みのフライトはドバイからロサンゼルスへ出発した© 2021 The Emirates Group

 「ワクチン接種した?」があいさつ代わりになった街だが、接種後も100%安全ではないため、マスク着用が義務付けられている。ドバイ万博を前にして、一日も早く元の生活に戻れるよう住民が一丸となっているUAE。その手際の良さと素早い対応を見るにつけ、国のリーダーのカリスマ性が際立つ。政治と指導者、そして社会システムへの信頼の高さが、未知のウイルスやワクチン接種に対する恐怖を払拭しているということは間違いない。

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