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娘と起業、主婦から会社代表に。 ライフスタイルブランド代表・仲本律枝さんの働き方。May 28, 2023

2023年5月19日発売の特集「あの人は、どう生きてきたのか」。暮らしを取り巻く状況が変化し、自分らしい生き方を模索してきたここ数年。日常を取り戻しつつある今、これからの人生を心から楽しむためのヒントを、自分らしい素敵な生き方を実現している人々から学ぶ特集です。ここでは、自分らしく働く5人のストーリーを聞いたBinB企画より、ライフスタイルブランド代表の仲本律枝さんの働き方を紹介します。

主婦から会社代表に転身。娘とともに アフリカンプリントの魅力を日本へ。

自分らしく働くこと。ライフスタイルブランド代表の仲本律枝さんの場合。

とにかく全力投球で行動するのみ。 主婦業で培われた底力。

大学を卒業後、すぐに結婚。以来、4人の子育てと、義母の世話と。仲本律枝さんの〝仕事〞は、40年近くずっと〝主婦〞だった。

「家事で手一杯で、外で働いたことがないんです。でも、子育ても家事も大好きだったので」

 しかし4人とも成長し、全員が巣立ってしまったら、「あれ? そのあとは私、何をしたらいいの?って」。それで新しい生活の練習がてら、パートに出てみた。雑貨店やホテルの厨房など、こちらの業務も大いに楽しみ、「こんなふうに楽しみと実益を兼ねるようなことがあれば、やってみたいなって」。

 ちょうどそんなタイミングで、ウガンダに滞在中の長女の千津さんから「母ちゃんさ、日本で一緒に会社やらない?」と連絡が。2015年のことだ。「NGOの駐在員として農業支援で各地を回っていて、女性の力を見せつけられたんです。縁の下の力持ちとしてコミュニティを支えていて。自分が事業を起こすなら、彼女たちの可能性を広げるようなプロジェクトがいいな、と思っていて」と千津さん。

 そこで目をつけたのが、ローカルマーケットに床から天井まで所狭しと積まれた、色彩豊かなアフリカンプリントだった。

「見つけたとたんに夢中になりました。日本から遊びに来た友達を布屋さんに連れていっても全員がかわいいと絶賛の嵐だったので、これはビジネスになるかもしれない、と」

 現地の女性たちを採用して裁縫の技術を習得してもらい、サンプルを作製するなど、準備は着々と進めていったものの、当時、千津さんはまだNGOで働く身。

「日本にいて、この事業を手伝ってくれる人、誰かいないかな……と脳裏に浮かんでしまったのが、母ちゃんだったんです(笑)」

 それまでも、娘の現地での動きは本人から逐一聞いていたという仲本さん。やりたい事業のイメージも共有していたので、「会社を起こすと聞いても、べつにびっくりしませんでした。へえ、いいんじゃない?と他人事で相槌を打っていた。そうしたら、ウガンダで作ったプロダクトを日本で売ってよ、と。え、私が!?と、ここで初めて驚いたわけですけども(笑)。でも、扱うものは良さそうだし、しかもそれが女性たちの仕事づくりにもつながるのなら、ますますいいじゃないかと。じゃあ、やる!って」。

東京・神楽坂のショールームには全商品がラインナップ。予約優先、土日祝のみ営業。東京ミッドタウン八重洲で5 月28日までポップアップを開催。
東京・神楽坂のショールームには全商品がラインナップ。予約優先、土日祝のみ営業。東京ミッドタウン八重洲で5 月28日までポップアップを開催。
娘の千津さんが仲本さんをビジネスパートナーに抜擢したのは、いちばん身近で「母ちゃん」の秘めた力を感じ取っていた家族だからこそ。
娘の千津さんが仲本さんをビジネスパートナーに抜擢したのは、いちばん身近で「母ちゃん」の秘めた力を感じ取っていた家族だからこそ。

 さて、それからが大変だった。勤めた経験もなければ、ましてや会社の立ち上げ方など知る由もなかったからだ。

「ウガンダと日本は6時間の時差があるんですが、朝起きると娘から〝今日のTo Do〞と指令がLINEに入ってるんです(笑)。私は言われたことをひたすら必死にこなしていくという日々。とにかくてんやわんやで、そのときは楽しむ余裕はまったくありませんでしたね」

 とはいえ、家族7人の日々のタイムマネージメントを一手に請け負い、常なる段取りの組み立て、突然のハプニングへの臨機応変な対応など、これまでの主婦業で鍛えられたマルチタスク能力は大いに役立ったに違いない。

 ふたりの会社、〈RICCI EVERYDAY〉を設立すると、まずは友人らに商品を紹介、個人に販売するところからスタート。ツテを頼ってセレクトショップなどにも商品を卸した。風向きが変わったのはある日、百貨店に買い物に行ったときのこと。エントランスにポップアップショップが出ていて「うちの商品がここに置かれたら、きっといいだろうな」と思いつく。仲本さんは大胆にも販売員にその場で、「どうやったらここで出店できるんですか?」と尋ねると「バイヤーに会って、話をしてみてはどうでしょう」との返答。その足でインフォメーションデスクに行き、「あの、バイヤーさんってどこにいるんでしょうか?」。

 たまたま在席していた担当者につないでもらえ、たまたまその日使っていた私物のプロダクトをアピールできた。アポなしの突撃交渉など今ならとても考えられないが、何も知らない素人だったからこそできた、と当時を振り返り赤面する仲本さん。しかしその行動力のおかげでポップアップショップは見事実現する運びとなり、奇しくもイベント数日前、テレビでブランドが紹介された影響で、用意していた在庫は初日の数時間で完売。その後は、各地のポップアップイベントの予定が順調に入っていった。

 現在は地元の静岡から居を移し、東京・神楽坂の事務所兼ショールームの近くに暮らす仲本さん。住む場所も生活スタイルも、想像だにしていなかった展開になっている。

「睡眠中に見る夢も、もはや仕事のことばかり。それほどに、頭のなかは仕事のことでいっぱいです。でも家事が疎かになるのは嫌で、そちらも完璧にしたい。だからときどきキャパオーバーになることもあります。後ろを向いたときが、たぶん辞めるときなんだろうと思ってはいるんですけど、仕事を辞めたいと思ったことはまだ一度もないんです」

2017年には夫と一緒に初めてウガンダを訪れた。食べ物はおいしく、気候も良く、緑は美しく、「これは住める!」と思ったという。
2017年には夫と一緒に初めてウガンダを訪れた。食べ物はおいしく、気候も良く、緑は美しく、「これは住める!」と思ったという。
アフリカンプリントのワンピースやエプロンなどのウェア、バッグやポーチなどの小物のほかに、ペーパービーズやレザー素材の商品も手がける。
アフリカンプリントのワンピースやエプロンなどのウェア、バッグやポーチなどの小物のほかに、ペーパービーズやレザー素材の商品も手がける。

仲本律枝 Ritsue Nakamoto

1957年静岡県生まれ。専業主婦として4 人の子どもを育て上げたあと、2015年に長女・千津さんとライフスタイルブランド〈リッチーエブリデイ〉を設立、代表となる。オンラインショップの商品発送や在庫管理など、同社の倉庫業務全般とスタッフのサポートを一手に引き受けているほか、接客を担当することも。写真は東京・神楽坂にあるショールームにて。Instagramは@riccieveryday

photo:Shinsaku Kato text:Mick Nomura(photopicnic)

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