中古マンションの内覧で誰でも良し悪しを判断できるポイントとは? 専門家が説く「住民目線」

首都圏では2016年に初めて中古マンションの成約件数が新築マンションの発売戸数を抜きました。以来、ずっと中古人気が続いています。

中古マンション最大の魅力は割安感ですが、安ければ良いというものではありません。購入を検討するとき、ほとんどの人は内覧に行くでしょう。どんなところをチェックすべきでしょうか。

仕事から帰宅したときの気持ちでエントランスに立つ

仕事から帰ってきたという気持ちでどういう行動をとるか、どこに立ち寄るかを考える

中古マンションの購入を検討するときは、専門家にホームインスペクション(住宅診断)を頼むのがベストですが、一般の人でも内覧で物件の良し悪しを判断できるポイントがあります。

不動産コンサルティング会社さくら事務所のホームインスペクター、辻優子氏は「お客様目線ではなく、自分の住まいとして見学することが大切」と話します。

中古の場合はとくに検討段階ではまだ他人の住居を見に行っている感覚になりがちです。不動産会社の担当者と一緒に行くと、「こちらへどうぞ」とエレベーターに乗って目的の部屋に連れて行かれてしまうかもしれません。しかし、まずは仕事から帰ってきたという気持ちで、エントランスで立ち止まりましょう。

「そのときにどういう行動をとるか、どこに立ち寄るかと考えます。ドアのカギを開けるところから自分の日常を当てはめて疑似体験します。郵便ポストを確認する人が多いと思いますが、ポストは築年数によって、オートロックの外にあるタイプもあります。手が簡単に入るポストもありますし、そのあたりの不安感は個人的な感覚になります。また、郵便物が溢れているポストを見ると、その部屋の人は留守が多いのか、それとも空室なのか、と考えます。あるいは、溜まってきた郵便物を取るか取らないかは個人の自由ですが、住戸の人がちゃんと使っているかどうかも想像することができます」(辻さん)

中古マンションだからこそ「管理」がよく見える

中古マンションは管理レベルが見えるのが大きなポイント

「マンションは管理を買え」とよく言われます。中古マンションの内覧が新築と決定的に違うのは、すでに何年も住んでいる人がいるということです。新築はこれから管理していく物件なので判断できませんが、中古は管理レベルが見えるのが大きなポイントです。

大規模修繕は一般的に12~13年と言われますが、建設のときの施工が良かったりすると15~18年という管理組合もあります。

「必ずしも年数だけで、管理の良し悪しは判断できません。質問の仕方としては、まず修繕の予定があるかどうかを聞きます。予定があったものの、傷みが少ないので15~18年に延長したというケースなら、とてもうまく維持管理している管理組合だと考えてよいでしょう。一方、話し合いをしていないとか、費用が足りなくて先延ばしになっているケースは良くありません。年数だけで判断すると、しっかり話し合っている良い管理組合を見逃してしまいます」(辻さん)

「マンションの共用部分では、傷みや不具合があってもすぐに修繕できるとは限りません。予算もあるし組合での話し合いも必要です。修繕はまとめてやることが多いので、数ヶ月後、数年後に計画があるかもしれません。気になったところがあれば、どんな対策をとるのか聞いてみましょう。例えば、オートロックの鍵はだんだん固くなって開けづらくなるときがあります。一斉修繕のときに直す計画があれば、問題ありません。住んでいる人たちが気づいて話し合ったという事実がプラス情報です」(辻さん)

管理レベルの問題か、住民マナーの問題か

目に見える部分は管理レベル以前に住民マナーの問題という場合も

共用部分を見るとき、辻氏は「パッと見ただけですぐに判断してはいけない」と言います。

例えば、清掃状態。情報サイトの中には「廊下にゴミが落ちているような物件は…」と書いてあるものもありますが、たまたま見に行った日にゴミが落ちていたということもあり得ます。

マンションの規模によっては、清掃は週に1~2回という物件もあるので、内覧と清掃のタイミングが合わない場合もあります。嫌悪感が出るほど明らかに清掃状態が悪い場合は別ですが、あまり神経質になりすぎると本質を見逃してしまう可能性があります。

外壁のヒビ割れを見つけると、誰でも不安になります。しかし、築年数に照らし合わせて妥当なレベルかどうか相対的に判断するのは、プロにしかできません。ヒビが入っているから即ダメとも言えません。

「外壁のヒビが長年放置されると中からモルタルが流れ出て白く汚れていることがあります。そのときはメンテナンス状況を質問しましょう。『来年修繕します』という回答があれば問題ありません。そのことを話し合っている実態があれば、住んでいる人はしっかりしているということです。逆に、誰も気づいていないなら問題ありです。なお、一般的に築8~9年の物件の場合、ヒビ割れがあっても管理組合の責任ではありません。建築当時の施工の問題です」(辻さん)

エレベーターと各部屋への共用廊下は、自分の部屋と違って雑に扱う人がいます。エレベーターの中が傷ついていたり、廊下に個人の荷物やダンボール、自転車を置いたりする人がいます。もちろん、管理人が頻繁に見回りをして注意しているところもありますが、管理レベル以前に住民マナーの問題とも言えます。

建物を管理するのは管理組合であり住民自身です。清掃や外壁への着眼点はきっかけに過ぎません。

部屋内部は時間帯を変えて複数回の内覧も

日当たりを気にする人は多いが、見に行った日が曇りの場合、あらためて他の日に見せてもらったほうがいい

購入を検討している部屋からの眺めはもっとも重要なポイントの1つです。窓を開けて今は眺めが良くても、すぐ近くに空き地や工場、複数の古い長屋などかある場合は要注意です。

「防災の観点から、空き家や古い建物は撤去していくというのが多くの自治体の方針です。まとまった土地が駐車場になっていれば、オーナーさんが亡くなった後に相続が終わってビルが立つこともあります。また、何かの建物が立っていても安心はできません。区画整理や都市計画などで建て変わってしまう可能性があるかどうか、仲介会社に聞いてみましょう」(辻さん)

日当たりを気にする人は多いと思いますが、見に行った日が曇りの場合、あらためて他の日に見せてもらったほうがいいでしょう。

また、南向きだからといって、必ずしも完璧な日当たりとは限りません。とくに都市部では、周囲に建物があると、陰になることはよくあります。晴れた日に見に行った場合は、逆に雨の日に見に行くと違った情報が得られるかもしれません。例えば、近所の工場のトタン屋根の雨音が気になる人もいるでしょう。

遮音性を調べるのは専門家でもむずかしい

水回りを確認するとき、辻さんは「キッチンや洗面所の下の収納を開けて、排水管を手で触るだけでも十分」と言います。水漏れがする不良物件に出会うのはかなり稀だからです。

壁に関しては、外に面した壁に黒い汚れがないかを見ます。汚れがあるとすれば原因は2つ。雨漏りによるカビか、古いマンションに多い結露です。結露は断熱性の高いマンションだとなりにくいのですが、この2つに関しては判断がむずかしいそうです。窓枠に黒ずみがあればカビの可能性を考えましょう。

遮音性がどのくらい完全なのかはプロでも調べるのがむずかしいといいます。

「よく、床の厚みを調べればいいと書いてあったりしますが、参考程度にしかなりません。専門家でも、設計図や形状から見抜くことは困難で、高額なマンションでどんなに防音に配慮してあっても、隣室の音は条件次第で聞こえるときがあります。住んでいる人に聞いてみるのがベストですが、それもその人の体感になってしまいます。音に関しては感じ方の個人差が大きいですね」(辻さん)

耐震性といった構造に関する不具合は、柱や梁などの共用部分に発生するひび割れなどの事象を時間をかけて観察しないと簡単には判断できないのですが、築年数で耐震基準は変わります。建築基準法の耐震基準は大地震のたびに見直されていますが、大きなターンニングポイントは1981年です。

1981年6月1日に施行された改正建築基準法では、それ以前の耐震基準から大幅な見直しが図られました。具体的には、震度6~7クラスの大地震でも建物が倒壊せず、少なくとも人命を損なわないような強度が必要とされ、現在の住宅もその性能がベースです。

注意しなければならないのは、建築年そのものではなく、1981年6月1日以降に建築確認を受けていること。旧耐震基準で1981年6月1日以降に完成した建物も少なくないからです。

「2000年以降、耐震性能を1.25倍に高めた商品が大手中心に供給されていて、震度6~7クラスでも建て替えリスクが低めになっているマンションがあります。仲介営業担当者がそのセールスポイントに気づいていないこともあるので、新築販売当時の資料を探してもらって確認できればいいですね」(辻さん)

また、2003年7月、改正建築基準法が施行され、シックハウス対策として、すべての居室で24時間換気可能であることが義務化されました。現在の仕様により近い建築構造のものに住みたい人は改正後のマンションがおすすめです。

住み心地は「住んでいる人」に聞くのがもっとも確実

日当たりや遮音性の問題だけでなく、買い物の利便性なども含めて、総合的に判断する便利な言葉として「住み心地」という言葉を使いますが、辻さんは住み心地を知る上で2つアドバイスします。

1.マンション内の掲示板を見ること

例えば、音の問題で気にしている人がいれば「ピアノの練習では○○に注意しましょう」みたいな形で掲示されていることがあるようです。

2.マンションの住人に直接話を聞くこと

「帰宅してきた人に声をかけ、率直に知りたいことを聞いてみましょう。ざっくりと『住んでみて何か気になることはありますか?』くらいでOK。マンション内の交流や住み心地の本音など、管理会社からは聞けないような情報が得られるかもしれません」(辻さん)

マンションから出てきて外出しようとする人だと迷惑がかかるので、帰宅した人のほうがベターです。現在住んでいる人も物件の購入を決める前におそらく内覧したはずです。購入を検討している人の気持ちは理解しているので、きっと有益な答えが返ってくるはず。

知らない人に声をかけるのは勇気がいりますが、ぜひ、トライしてください。

<取材協力>
株式会社さくら事務所

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