いま岡山県が「移住」支援に積極的⁉ 2人の経験者に聞く支援制度と体験談

働き方や生き方が多様化する現代。価値観やライフステージの変化に合わせて、地方へ移住し起業する人も年々増加しています。そこで今回は、かねてより移住支援に積極的に取り組んできた岡山県の2つの自治体の移住・起業の支援制度をピックアップ。支援制度の内容と、実際にこれらの制度を活用して岡山県へ移住・起業した方たちの体験談を紹介します。

自治体の移住・起業支援制度について

2014年、加速度的に進む大都市への人口集中と地方の過疎化をくい止めるべく国が掲げた「地方創生」。それに伴い、各自治体でも子育て世代を応援するものや、空き家活用を促進するものなど、独自の支援対策が多数導入されました。なかでも各自治体が力を注いでいるのが、移住・起業に関する支援制度です。ここでは岡山県の北部に位置する真庭市と、南部に位置する小田郡矢掛町の支援制度を抜粋してご紹介します。

岡山県・真庭市の場合

岡山県・真庭市では、市内に事務所を構える、住居を移転させるといった必要条件を満たし、市内で起業した人に対し上限100万円(補助率2分の1以内)を交付しています(要件によっては最大150万円の場合もあり)。単に補助金を交付するだけでなく、一人ひとりに寄り沿った支援が特長で、住居や事務所探しのための下見ツアーの計画、起業や地元企業への就職相談、移住後のフォローアップなど、マンツーマンの手厚い支援を行っています。

移住に関しては、土曜日・日曜日も利用可能な「真庭市交流定住センター」を開設。市役所窓口と併用することで、週7日、曜日に関係なくいつでも相談が可能な体制を取っています。また、起業を伴わない場合でも、市内の空き家を購入して移住する場合には、160万円を上限に補助を受けられる制度などもあります。

真庭市交流定住センタースタッフと地域おこし協力隊メンバー
真庭市交流定住センタースタッフと地域おこし協力隊メンバー(真庭市提供)

岡山県真庭市に移住・起業した小林一昭さん

東京でシステムエンジニアとして第一線で活躍していた小林一昭(こばやしかずあき)さん。ある日、仕事を通じてドローンを知り、その幅広い可能性を確信して起業を決意しました。2019年に真庭市へ移住。政府の地方創生起業支援制度と真庭市の移住支援制度を併用して、ドローンを活用した獣害対策や森林測量、ラストワンマイル輸送業務などを行う『株式会社真庭運創研』を立ち上げました。

ドローン
ドローンとの出合いが移住・起業を決意するきっかけに(小林一昭さん提供)

まずは場所選び。移住先決定の決め手は「人」

起業を決意して、まず初めに取り組んだのは場所選び。都内にある、各都道府県の移住・起業支援情報を提供する『ふるさと回帰支援センター』やネットなどを利用し候補地を絞り込んでいったのだそう。

「私の場合、支援内容の充実度にくわえ、ドローン利活用に適した場所かどうかやニーズの有無など、起業優先で探していたので、いくつかの候補地までは比較的簡単に絞れました」と話す小林さん。だた、その中から一カ所に確定するのはやはり難しかったのだとか。

「最終的には『人』で決めた感じですね。担当してくれた真庭市の移住相談員の方がとても親身で話しやすい方でした。こちらの希望や条件をくみ取って、事務所に最適な物件情報を提供してくれたので、そこから起業後のイメージがワーッと広がる感じでしたね。東京からは遠く土地勘のない場所なので、情報収集に際しても手厚く支援してもらえたのはとてもありがたく、参考になりました。起業ありきとはいえ、これから移住して起業しなければならない場所なので、たまたま担当していただいた方との縁といったようなものも大切に思えて真庭市に決めました」(小林さん)

ドローン写真測量基礎講座に講師として参加することも(小林一昭さん提供)

新たな環境にもすぐに順応。新生活を満喫

事務所開設の準備と並行して新居の手配も行った小林さん。ここでも支援員の方に助けられたのだとか。

「都会生活が長かったので『住居=マンション』だったんですよね。ですが、真庭市では圧倒的に一軒家の方が多い。なので、これまで自分の中にある住まい探しの物差しが当てはまらない訳です。ましてや東京から何度も足を運ぶ時間もなく、暮らしの利便性や周囲の環境などを知り尽くした支援員の方からのアドバイスはとても貴重でした」(小林さん)

当初は移住に反対していた奥様は、すべての準備が整ってから後発の形で真庭市へ。初の一軒家での暮らしに、はじめのうちは家の前を通る人の足音や新聞配達のバイクの音などにその都度身構えていたそうですが、今ではすっかり慣れ、家庭菜園で育てた野菜や河原に自生している植物を料理に使ったり、東京ではできなかった運転ができるようになって自由にドライブしたりと、新天地での暮らしを満喫しているそうです。

河原に自生する植物を採取
河原に自生する植物を採取する小林さんの奥さま(小林一昭さん提供)

ドローンを活用し買い物難民ゼロへ

移住・起業を決めてから、必要な準備のすべてをわずか半年で行ったという小林さん。新生活に向けて慌ただしくも充実していた当時を次のように振り返ります。

「私の場合、それまでの仕事にも充実していたし、いつかは起業したいとか、移住したいと考えていた訳ではないので、もし、起業支援制度がなければ会社を興してなかったかもしれません。短期間で起業するためには、山積みの“やることリスト”を整理して一気にこなしていかねばならず、本当にバタバタでしたが、それ以上に、自分のやりたいことに向かって進んでいるという実感で、日々ワクワクしていました。あのワクワク感を体験できただけでも思い切って起業した甲斐があると思っています」(小林さん)

今後は、真庭市を中心にドローンを活用したラストワンマイル輸送モデルの社会実験に向けて活動を続け、「買い物難民」をゼロにすることが目標と声を弾ませます。

岡山県・小田郡矢掛町の場合

矢掛町では、「空き家活用新規創業支援事業補助金」として、町内の空き家を活用して新たに創業した方を対象に上限200万円(補助率2分の1以内)を支援しています。矢掛町の場合、役場での対応にとどまらず、起業に関することは地元商工会の経営指導を事前に受けるなど、段階を追ってそれぞれの専門部署がリレー形式で引き継ぎ、起業・移住完了までをサポートする体制になっています。また、町内の空き家を改修して移住した場合に、改修費用の2分の1以内(上限150万円)を補助する制度なども導入しています。

岡山県小田郡矢掛町に移住・起業した木工作家フジタマリさんと妹の恵莉奈さん

数々の個展を開催し活躍する木工作家フジタマリさん。石の彫刻家であるご主人と共に岐阜県から矢掛町へ移住。その後、スイーツ作りが得意な妹・恵莉奈(えりな)さんを呼び寄せ、ギャラリーを併設したカフェをオープンしました。

ギャラリーカフェ『ときとま』
古民家を活用してオープンさせたギャラリーカフェ『ときとま』(フジタマリさん提供)

「矢掛町移住定住お試し住宅」を活用し移住の準備

矢掛町への移住について、「『ザ・のみぎりズム2016』というイベントで矢掛町にある石材会社の方と意気投合した夫から、その会社で働きたいと相談を受けたのがきっかけだったんです」と話すフジタマリさん。独身時代にも引っ越し経験が多かったことから、あまり抵抗を感じることもなく、すぐに移住に同意したのだとか。

「移住することに対しての抵抗はまったくなかったのですが、とにかく岡山県に対する知識がほぼ皆無。なので、住まい探しについても職場が矢掛町だから矢掛町だなといった具合ですぐに町役場に相談しました」(フジタマリさん)

町役場への相談を通じて、移住に関する補助金や起業に対しての補助金などさまざまな支援制度があることを知ったそうです。なかでも、特に役立ったのが「矢掛町移住定住お試し住宅」制度だったのだそう。これは、町が所有する物件を一日あたり1000円、一回につき最長10日間、2回まで使用できる(2021年10月時点)というもの。

「実際に町内での生活を体験できるので、買いものや移動の利便性など、周りの環境を知るには最適。お試し住宅を使用している間に住居や工房探し、起業の相談など、新生活の準備を効率的に進めることができました。同時に、ボランティアで地域振興に尽力する方々とも知り合うことができ、あっという間に矢掛町が好きになっていましたね」(フジタマリさん)

理想的な古民家を発見。妹を呼び寄せ住居兼カフェを開業

工房兼住居となる物件を探すなかで、商店街に面した古民家を紹介されたフジタマリさん。工房を設けるにはスペースや騒音対策の観点から難しいと判断したものの、諦めきれないほどに気に入ったため、大阪に住む菓子作りが得意な妹・恵莉奈さんとのギャラリーカフェの開業を思いつき相談したのだそう。

「驚いたことに、妹も『おもしろそう』と即答で快諾してくれました。さすが姉妹ですよね(笑)」(フジタマリさん)

その後、準備期間を経て2021年4月に手作りのマフィンやタルトなどを提供するギャラリーカフェ『ときとま』をオープンさせました。

「カフェの奥が住居になっているんです。主人の職場にも通いやすく、本当にいい物件を紹介してもらったと喜んでいます」(フジタマリさん)

ほど近い場所に工房用の物件も見つかり、新たな作品の制作に邁進されています。

ギャラリーカフェ『ときとま』の店内
ギャラリーカフェ『ときとま』の店内(フジタマリさん提供)

姉・フジタマリさんに呼び寄せられる形で矢掛町に移住した恵莉奈さんは、「姉が誘ってくれなければ今も大阪で会社勤めをしていたかもしれませんね。自分が作ったお菓子を、おいしいと言って食べてくれる人がいる。素敵な仕事が実現できたのは姉のおかげです。今はまだオープンしたばかりで手探りで進めている感じもありますが、今後はさらにメニューを増やしたり、イベントを開催したりと夢は無尽蔵です」と笑みを浮かべます。

<b>チャンスを逃さず思い切って行動してみて!</b>
今回、矢掛町の支援制度を活用したお二人は「迷っているならとりあえず行動を起こすことをお勧めします」と口をそろえます。初めは大変そうに思えた書類申請や手続きも、実際には意外と簡単だったとも。

「分からないことは各自治体の担当部署に聞いてみるのが一番です。自分で調べた時はとても複雑そうに思えましたが、建築業者の方が手配してくれる書類も多く、あまり手間はかかりませんでした。『いつかは』と思っているなら、『今』がその時かも。ぜひトライしてみてください」とエールを送ります。

まとめ

日本各地の多くの自治体が導入している移住や起業に伴う支援制度。ですが、その詳細は同じ県内であっても市町村によって実にさまざまです。まずは「どんなところに住みたいのか」「どんな業種で起業したいのか」「制度の適用条件を満たしているのか」など、自身の希望を具体的に整理し、それを踏まえたうえで、しっかりとした情報取集を行うことが後々後悔しないための重要なポイントといえそうですね。

最新情報は自治体のホームページをチェック
ここで紹介した各自治体の補助金等の内容はどちらも令和3年度の内容です。年度ごとに見直しがあり、金額や要件が変更になる場合がありますので、事前に自治体のウエブサイトなどで確認を行ってください。
【取材協力】
岡山県真庭市 
真庭市交流定住センター内COCO真庭 
岡山県小田郡矢掛町(矢掛町役場産業観光課) 

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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