動き出した集落の孤立化対策 能登にそっくりな秋田・男鹿半島
日本海に突き出た秋田県の男鹿半島を巡り、「半島防災」がクローズアップされてきた。海に囲まれ、山がちな地勢は震災に遭った能登半島に似て、災害時の孤立化といったリスクを抱える。県や男鹿市は能登の教訓を踏まえた備えを始めた。
能登半島地震では道路が寸断され、石川県のまとめでは最大24地区で3千人以上が孤立した。男鹿市は大規模な災害の場合、半島沿岸に点在する12地区1450人に孤立化の懸念があるとしている。ほとんどが海辺の急斜面に沿った県道しかアクセス道はない。
能登の状況を見て、さっそく備蓄食料の拡充を今年度当初予算に盛り込んだ。市内5カ所の拠点に県と共同の備蓄はあるが、市独自に孤立化の対策が必要と考えた。「ハードの整備は時間がかかる。ソフトは市単独でやれる」と危機管理課。今年度は水を注いで食べるアルファ米など1540食を12地区に分配する。
半島の西沿岸の真ん中あたり。12地区の一つ、加茂青砂は漁港と浜辺の集落だ。背後に急斜面が迫る。20年ほど前、台風で一時孤立したことがある。1983年の日本海中部地震では津波に襲われ、遠足で訪れていた小学生13人が亡くなった。
漁師の菅原繁喜さん(80)は今も口惜しい。「道路が寸断されたら、頼みはヘリコプターになると思うんだ」
自治会長をしていた2016年。集落の端にある広場の駐車場を、ドクターヘリの離着陸場に選んでもらおうと消防を通じて働きかけた。だが、広さが足りず、近くに電線がはられているなどの理由でかなわなかった。
住民85人は70~100歳代が7割を占める。裏山の高台や近くの宿泊施設への避難といっても、容易でない人もいる。周辺のヘリ離着陸場までは5キロ前後の距離だ。
「地震がおきたら何がどうなるか分からない。暖かい時期ならいいが、冬に孤立したら。灯油など運搬できないし、心配だ」と菅原さんは話す。
県は能登の地震発生の直後から男鹿半島の孤立集落対策を検討し始めた。5月には初の海上輸送訓練を行う予定だ。
計画では、男鹿市の戸賀地区が孤立したことを想定。秋田海上保安部の巡視船が秋田港から戸賀湾に入る。
物資輸送とともに、陸上自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)、県と男鹿市の人員が、情報収集や負傷者対応などの手順を確認するという。
県の三上勝紀防災監は「災害は明日起こるかもしれない。今やれることをなるべく早く訓練しておきたい」。県は今年度、検討委員会を設けて男鹿半島防災の方針をまとめるとしている。(隈部康弘)