鳥獣被害対策、専門家集団「テゴス」がお助け 市町の枠超え本格稼働

興野優平
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 イノシシやシカなどの鳥獣による農作物被害を減らすため、専門支援組織「tegos(テゴス)」が本格稼働した。本部は広島県農業技術センター(東広島市)に置き、参加する市町の専門人材を育て、広域的な農家支援に取り組むという。

 県によると、都道府県レベルで鳥獣被害対策の支援組織をつくるのは、全国初の試みという。

 「イノシシだけでなくシカからも守るには、メッシュ柵(格子状の金属柵)に電気柵を組み合わせて」。10日に県農業技術センターであったtegosの開所式では、スタッフが県や市町の関係者に被害対策を説明した。

 かつて農協に勤めていた箕野博司・北広島町長は「いままで経験則に頼ったり、科学的根拠が不明なまま対策を続けていたりした。正しい知識を学べば対策は大きく変わってくる」と期待した。

 北広島町田原の農家、大畑和憲さん(72)も期待を寄せる一人だ。育てていた巨峰が収穫の1週間前にイタチに荒らされ、全滅したことが何度もあった。イノシシにジャガイモを掘り返された跡は「ユンボで荒らしたようだった」。これまでも電気柵を設置するなどしてきたが、「どうしてもその場限りの対応になりがちだった」。専門家が継続的に相談に乗ってくれることが頼もしいという。

 県の2022年度の農作物被害額は4億307万円。ピークだった10年度から半減したが、ここ数年は4億円前後で推移し、下げ止まっている。

 湯崎英彦知事は9日の定例会見で「愛情込めて育てた農作物が荒らされて農業者の生産意欲を減退させるなど、数字以上に深刻な被害を及ぼす」と危機感を示した。

 課題の一つは対策を市町ごとに担っていたことだった。県農業技術課によると、担当者が定期的に異動で入れ替わり、被害地域に指導できるだけの技術や知見が蓄積されづらかった。食べ物を求めて移動するイノシシやシカに市町の境は関係ないのに、広域的な対策がとりづらかったという。

 そんな中で県が昨年9月に立ち上げたのが、一般社団法人「県鳥獣対策等地域支援機構」、通称tegosだ。通称名は広島弁の「てごうする(手伝う)」にちなんだ。

 参加する市町が推薦した人材がtegosに雇用され、動物行動学などの専門知識を身につけ、専任者として市町に駐在する。広域的な被害調査や技術指導、農業者の相談対応などを担うという。今年度は11人でスタート。人件費を含む費用は参加市町が3400万円を負担するほか、県や市町の業務受託でまかなっていく予定だ。

 広域的な対策をとるには、幅広い市町の参加がカギだ。しかし、今年度は尾道市庄原市安芸高田市、北広島町、神石高原町と5市町の参加にとどまった。県が参加を見送った市町に理由を聞いたところ、「専任者の確保が困難」などの回答があった。県農業技術課の柴山勝利課長は「成果を発信することで、ほかの市町にも参加を呼びかけたい」と話す。(興野優平)

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