抜け落ちた民意どこへ 静岡知事選、立候補予定2氏は「リニア推進」

大海英史 田中美保 青山祥子 南島信也
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 5月9日告示、26日投開票の静岡県知事選は、元副知事の大村慎一氏(60)と前浜松市長の鈴木康友氏(66)が支援拡大の動きを本格化し始めた。一方、両氏とも「リニア中央新幹線推進」を掲げるなど、水資源や自然環境の保全を訴える声の受け皿が見あたらない。開発優先や原発再稼働に不安を抱く民意が、行き場を失うおそれもある。(大海英史、田中美保、青山祥子、南島信也)

 「南アルプスとリニアを考える市民ネットワーク静岡」などの市民団体は22日、川勝平太知事にもう一度立候補するよう求める署名活動静岡市内で始めた。共同代表を務める松谷清・静岡市議らが同日、知事に会って立候補要請と署名活動を伝えたが、立候補は否定したという。

 メンバーらは、大村、鈴木両氏が大井川の水資源や南アルプスの環境保全を前提としつつ、「推進」を強調することに危機感を抱く。松谷氏は「2人とも川勝知事の姿勢を引き継がないとも発言しており、評価できない」と話す。

 複数の市民団体が名を連ね、リニア建設反対の意見もあれば、建設の前提として水資源や生態系を守るよう求める意見など、幅がある。インターネットも含めて30日まで署名を募り、知事に渡す予定だ。

 水資源の確保では、JR東海から田代ダムの取水抑制による水量戻しを引き出した知事に対し、「大井川流域の住民を中心に評価する声も多い」(県選出の国会議員)。大村、鈴木両氏の一騎打ちになれば、リニアをめぐる議論が争点としてかすむおそれもある。

 浜岡原発については、知事は「再稼働できる状況にない」との認識を示してきた。原子力規制委員会の審査が続き、合格しても対策工事が続く見通しなのに加え、使用済み核燃料を貯蔵するプールに限りがあることを課題にあげている。

 一方、大村氏は「安全性の確保が重要で、そこから議論をスタート」、鈴木氏は「規制委の新基準による判断を待って決める」としており、再稼働への姿勢を明確にはしていない。

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 自民党県連は22日、静岡市内で常任選挙対策委員会と総務会を開き、大村氏を推薦候補にすることを正式決定した。23日に党本部に上申する。選対委員長に城内実会長、副委員長に次期幹事長の相坂摂治県議が就くことも決めた。

 大村氏は会場であいさつした後、記者団に「自民党は県内で幅広い組織といろいろなつながりがり、オール静岡での県政の立て直しを訴えていきたい」と話した。

 総務会後に会見した城内会長は、浜松市の2支部から鈴木氏を推す声があるとして、「県西部の事情を考慮してほしい」との意見があったことを明らかにした。そのうえで「意見はあったが、全会一致で異議なしで決まった。一致団結して、限られた時間の中で頑張りたい」と述べた。

 与野党対決の構図になることには「国政選挙と知事選は違う。党派や企業と関係なしに県民に問うのがあるべき姿」と強調した。「自民党も大村氏を応援する組織の一つ」とも語った。

 一方で、県議会会派「自民改革会議」は同日午後に議員総会を開き、支援組織をフル回転させる準備に入った。各県議が地元で支援態勢をつくるため、衆院小選挙区の支部ごとに集まって知事選に向けた活動内容を打ち合わせた。

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 鈴木氏は22日、県東部8市町を駆け足で訪問し、JR三島駅前など3カ所で街頭演説した。鈴木氏が西部、大村氏が中部の財界の支援を受けるなか、両氏とも東部が勝負の行方を左右する「草刈り場」になるとみて、精力的な動きを見せている。

 鈴木氏はこの日の午前、三島市役所、函南町役場などを訪れ、午後には沼津市役所で正副市長と面会した。

 鈴木氏は「東部は東京に近くポテンシャルがある。スタートアップをもっと誘致するための秘策がある」と述べ、新興企業を後押しすることで東部の産業振興を図る考えを示した。頼重秀一市長はJR沼津駅周辺の鉄道高架事業に触れ、「東部全体の発展になる事業で、県との連携が大事だと思っている」と応じた。

 鈴木氏は面会後、記者団の取材に「それぞれの市や町の課題や特徴を聞き、勉強になった」と駆け足訪問を振り返り、「今後も東部や伊豆地域に対する私の思いをわかっていただけるよう活動していく」と話した。

 東部は中部、西部に比べ県の予算配分が少なく、川勝県政の偏りを指摘する声が多い。頼重市長は記者団に「新知事は公平公正に地域の発展に尽くし、それぞれの特性に応じた適切な予算配分を行ってほしい」と注文をつけた。

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 川勝平太知事の辞職に伴い5月9日に告示される知事選の立候補予定者説明会が22日、県庁であり、7陣営が出席した。

 すでに立候補を表明している元副知事の大村慎一氏(60)と前浜松市長の鈴木康友氏(66)のほか、候補者擁立を検討している共産党県委員会の陣営などが出席した。

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 知事選と同日に投開票される県議補選静岡市清水区選挙区(被選挙数1)に、食品販売会社役員の伊藤高義氏(48)が22日、自民党公認で立候補すると表明した。県庁で会見した伊藤氏は「地域と行政とのつなぎ役となり、安心安全で魅力ある街づくりに取り組みたい」と話した。

 同補選にはこれまでに、無所属新顔で公認会計士の山田新(あらた)氏(43)が立候補を表明している。

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