部活のフェリシモが「青森部」 「こぎん刺し」でウェディングドレス

鈴木淑子
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 ネコ好き社員が集まって消費者の心に刺さる商品を企画する「猫部」など、ユニークな販売手法で知られるカタログ通販のフェリシモ神戸市)がこのほど、新たな部活動として「青森部」を設立した。青森のためなら「一肌脱ぐ」と公言する社員や社外のクリエーターが、青森のよさを再認識してもらえる商品やイベントを企画して世の中に送り出しつつある。

 ウェディングドレスのサテン地に浮き上がる幾何学文様や、雪の結晶のような模様。細い金色のラメ糸やゆるくよられたふっくらした白い糸を一針ひと針、手で刺して形作られている。

 晴れ着の装飾的な模様としてあしらわれたのは、麻でできた野良着を暖かく、長く着るための修繕から生まれた津軽の伝統的な刺繡(ししゅう)「こぎん刺し」だ。

 青森県弘前市セレクトショップを営む傍ら、こぎん刺しに新しい生命を吹き込む活動にも熱心な佐藤秀子さんと、神戸市でウェディングドレスの仕立てやリメイクを手がけるデザイナー、タケチヒロミさんが制作した。

 きっかけは、昨年9月に青森市で開かれた企業交流会。青森空港神戸空港を結ぶ直行便の就航で、2時間かからずに行き来できるようになった青森と神戸のビジネス交流を推進しようと青森県が主催した。

 「こぎん刺しのドレスを作りたい」。短い自己紹介の場で、佐藤さんが数年来秘めてきた思いを打ち明けると、間髪入れずにタケチさんが「こぎん、大好きです」と応じ、たちまち意気投合。話はとんとん拍子に進んだ。

 これにはちょっとした伏線がある。この交流推進プロジェクトに昨春から携わるフェリシモ新事業開発本部の猪川恭兵さん(37)は、交流会に神戸の大手企業だけでなくクリエーターなど個人事業主に加わってもらうことにこだわった。

 直前まで北海道の担当をし、ほんの1年前まで青森は「通過するだけの県」にすぎなかった。

 それではダメだと、昨年7月に有休を使って、5歳の長女を連れてレンタカーで青森市内や十和田湖を回った。制作中のねぶたを見たり、ご当地の味に舌鼓を打ったり。だが、何より「出会った地元の人たちが素晴らしく、また会いに行きたい。彼らのためなら一肌も二肌も脱ぐつもり」と思うほどに。

 市井の人たちの多様なニーズに、大手企業にない発想や機動力で応えてもらえるのでは――。個人事業主の参加にこだわったのは、そんな期待からだ。

 青森に興味や関心のある他の社員も関わった。「ぴったりの人がいる」とタケチさんを薦めてきたのもそんな一人。以前、全国旅行支援で訪れた青森に「すっかりはまった」というタケチさんのSNSをシェアしていた。

 計らいは見事に奏功し、修繕を独自の美に昇華させたこぎん刺しの精神と、リメイクすることでドレスに詰まった思いや人とのつながりを大切にしてきたタケチさんの仕事が見事にシンクロ。こぎん刺しのウェディングドレスが生まれた。

 並行して1月には、「もっとお客様や社外の人にも青森の魅力を再発見してもらい、一緒に盛り上がりたい」と、週1回、自分たちの好きなテーマで仕事できる「部活」の仕組みを活用し、「青森部」を立ち上げた。部活は現在、「猫部」をはじめほかに15あるが、都道府県を冠した部の創設は初めてという。

 3月末には神戸の本社で青森を満喫できる体験型イベントを開催。6月から7月にかけては、部員らの「好き」を起点に発想した青森に関連する商品を売り出していく。さらに「青森に足を運んでもらい、青森を好きになってもらうツアー」(猪川さん)なども企画していきたいという。

 こぎん刺しのウェディングドレスは、26日から5月6日に「あおもり北のまほろば歴史館」(青森市沖館)の企画展で見ることができる。詳しくはhttps://www.instagram.com/a.selecthirosaki/別ウインドウで開きますまで。(鈴木淑子)

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