「消滅自治体」5市町が脱却 人口戦略会議 移住増の自治体も

興野優平
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 有識者でつくる民間の人口戦略会議が24日に公表した全国の自治体の持続可能性の分析結果によると、10年前の同種の分析で「消滅可能性自治体」とされた広島県内の12市区町のうち5市町が「消滅可能性」を脱したと判定された。人口減対策の効果もみえるが、県全体としては課題が多い。

 今回の分析では、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が昨年12月にまとめた「地域別将来推計人口」を使用。2050年までの30年間で20~39歳の女性人口が50%以上減少する自治体を「消滅可能性自治体」と名付けた。10年前の分析では市区町村別に公表していたが、今回は東京都以外の区は除いた。

 消滅可能性から脱却した5市町のひとつである大崎上島町は、瀬戸内海に浮かぶ人口約7200人の島だ。若年女性人口の減少率が10ポイント以上改善された理由について、町の担当者は「移住促進に力を入れてきたのが功を奏したのでは」とみる。

 Iターンに本格的に力を入れ始めた10年代前半以降、コロナ期を除いて毎年新たに10世帯程度の移住が続く。町は、転出者が転入者を上回る「社会減」を大きな課題と位置づけ、都市部のU・Iターンを検討する人を引きつける情報発信に力を入れてきた。

 担当者が島の魅力として挙げるのは、島外から人を受け入れる環境づくりだ。島民が修学旅行生を自宅に宿泊させる事業が定着した。

 19年には、国際バカロレア認定校で、全寮制の県立中高一貫校である「広島叡智(えいち)学園」が開校した。同校によると、全校生徒約250人のうち、島出身者は数人にとどまる。町の担当者は「島外の生徒が集まるのが日常となり、『よそ者』への抵抗感が薄まったことが、移住者の受け入れにプラスに働いた」とみる。

 一方、前回に続き「消滅可能性自治体」とされた人口約2万3千人の竹原市。若年女性の人口減少率が1.5ポイント悪化した。市の担当者は「とくに女性はひとたび都会に出るとなかなか戻らない傾向にある」と話す。市が国勢調査の結果をもとに算出したところ、20代前半から30代前半の女性人口の減少が顕著だったという。

 市は昨年度、少子化対策を進めるため、市民や転出した人へアンケートを実施。市を離れるタイミングについて尋ねたところ、「就職・転職・転勤など」が45.3%と最も多かった。市では人口の社会減の緩和に注力し、今年度予算でもスタートアップ支援事業などを盛り込んでいるが、市内には大学などの高等教育機関がなく、進学を機に離れる人も多いという。

 若年女性人口の減少率が20%未満で、県内で唯一「自立持続可能性自治体」と判定された自治体もある。マツダの本社がある府中町だ。1平方キロメートルあたりの人口密度は4914人で、広島市の4倍弱にのぼる。町の担当者は「広島市中心部やJR広島駅へのアクセスもスムーズで、大型商業施設があり、生活の利便性が非常に高い」と話す。また、仕事に就く親の代わりに祖父母が児童の保育を継続的に行う場合に手当を支給するなどの子育て支援も奏功しているという。

 人口戦略会議の分析公表を受けて湯崎英彦知事は24日にコメントを発表した。「県の今後の人口減少の見通しは依然、厳しい状況」との認識を示したうえで、「若年人口を近隣自治体間で奪い合うようなことには意味がない」と指摘。「東京一極集中を是正し、多極連携による国土形成を進めることが不可欠だ」と問題提起した。(興野優平)

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