星の生産工場はとても希少

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天の川の大規模分子雲サーベイプロジェクト「FUGIN」の観測データから、星の生産現場となる高密度ガスの量が、低密度ガスに比べて非常に少ないことが明らかになった。

【2019年7月31日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所国立天文台

銀河に含まれる数百億から数千億個もの星々は、銀河を漂う「分子雲」と呼ばれる冷たいガスから生まれる。分子雲には低密度ガス(薄い部分)と高密度ガス(濃い部分)があり、低密度ガスの中で高密度ガスが作られ、さらにその高密度ガスの中から星が作られる。

様々な銀河の観測から、銀河に分布する分子雲の総量に比べて作られている星が少なく、簡単な計算モデルから予想される数の1000分の1しか誕生していないことがわかってきている。高密度ガスにおける星の誕生過程の理解は様々な研究によって大きく進んでいるが、分子雲で作られる星の数が期待よりも少ないという問題の解決には至っていない。そもそも、高密度ガスがどのようにして作られるのか、分子雲の中に高密度ガスはどれくらいあるのかという根本的なことも、まだよくわかっていない。

こうした問題の解明を目指し、国立天文台の鳥居和史さんたちの研究グループは、野辺山45m電波望遠鏡で2014年から2017年に実施された天の川の分子雲サーベイプロジェクト「FUGIN」の観測データを解析し、2万光年にわたる範囲の低密度ガスと高密度ガスの量を精密に測定した。

低密度ガスと高密度ガスはサイズが大きく異なり、高密度ガスは低密度ガスの広がりの100分の1から1000分の1くらいしかない。そのため、従来の観測では高密度ガスをとらえる高い空間分解能と低密度ガス全体をカバーする広い観測範囲を両立することが困難だった。天の川銀河の電波地図作りを目指してきたFUGINプロジェクトにより、世界で初めて低密度ガスと高密度ガスの広域かつ詳細な分布が描き出され、分子雲の全貌が明らかになった。

FUGINプロジェクトで得られた分子雲の分布
FUGINプロジェクトで得られた天の川の分子雲の分布。(上)分子雲の3色電波画像(赤が12CO、緑が13CO、青がC18Oの分子からの電波強度)、(下)低密度ガス(左)と高密度ガス(右)の電波強度画像。低密度ガスは12COで、高密度ガスはC18Oで検出される。低密度ガスに比べて高密度ガスがごく一部でのみ検出されていることがわかる(提供:NAOJ)

研究の結果、2万光年の範囲に含まれる低密度ガスの総質量が太陽1億個分であるのに対し、高密度ガスはその3%にあたる太陽300万個分しかないことがわかった。これは分子雲の大部分が低密度ガスであり、高密度ガスはほんのわずかしか存在していないことを意味している。天の川銀河の渦状腕では高密度ガスがやや多く(質量比およそ5%)、腕の間の空間や棒状構造では少なく(0.5%以下)なることもわかった。

低密度ガスが自身の重力にまかせて自由に高密度ガスを作った場合、分子雲の大部分が高密度ガスで満たされてしまい、低密度ガスがほとんどなくなってしまうと計算されている。しかし現実はその逆で、高密度ガスはほとんど作られていなかった。つまり、何か高密度ガスの形成を阻害しているものがあり、そのために生まれる星の数も減ってしまっていると考えられる。分子雲の量の割に作られている星の数が少ないという問題に重要な示唆を与える結果だ。

今後、銀河の様々な場所での低密度ガスと高密度ガスの量や状態をさらに詳しく調べることで、高密度ガス雲の形成を阻害する要因が突き止められ、高密度ガス形成と星形成に関わる謎の解明が進むと期待される。