銀河の歴史を語る、周縁部の惑星状星雲たち

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楕円銀河M105の周囲に散らばる惑星状星雲の観測により、銀河の外側に古い世代の恒星が分布していることが示された。これらは銀河や銀河群の成長の軌跡とも言える。

【2020年10月14日 すばる望遠鏡

現在の宇宙には銀河が集まった銀河群、さらに大きな銀河団といった階層構造があり、銀河が孤立して存在することはまれである。銀河を引き合わせ構造を維持する役割を果たしていると考えられているのが、電磁波では観測できないダークマターだ。このダークマターの存在を想定した宇宙の標準モデルによれば、まず小規模な構造が形成され、それらが合体を繰り返すことで大きな銀河や銀河群、銀河団へと成長したと考えられる。

成長の過程で銀河は変形しながら移動し、星や星の材料がちぎれ落ちて一部が銀河間空間に取り残されるはずだ。そこで、銀河と銀河の間に散らばった星々を探して、それらがいつ誕生したのかを調べることは、銀河や銀河の集団が成長する過程を研究する上で重要である。

ヨーロッパ南天天文台のJohanna Hartkeさんたちの研究チームは、約3300万光年の距離に位置するしし座の銀河群(M96銀河群、Leo I group)に注目し、銀河群の隙間に散らばる星々を調べた。楕円銀河・渦巻銀河・矮小銀河と全てのタイプの銀河を含む銀河群としては、M96銀河群は私たちに最も近いもので、その中心には楕円銀河M105が存在する。

M105
M105と周辺の銀河(撮影:m2さん)。画像外の右下(南西)にあるM95、96などと共に銀河群を構成している。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

銀河間に散らばる星の目印として、Hartkeさんたちは惑星状星雲を利用した。惑星状星雲は太陽のような星が寿命を迎えたときの姿だ。核融合を終えて収縮した中心部(白色矮星)は余熱で紫外線などを放ち、それが拡散した外層のガスにエネルギーを与えて輝かせている。特に目立つのが酸素原子から出る青緑の輝線(波長500.7nm)で、研究チームはこれを用いてM105の周囲を調べた。

米・ハワイのすばる望遠鏡などによる観測の結果、M105の中心から16万光年離れたところにまで惑星状星雲が分布していることがわかった。M105における恒星の分布を調べた過去の研究によると、古い恒星の分布は今回検出された惑星状星雲と同じ傾向を見せており、今回の結果は古い恒星が惑星状星雲と同様に銀河の周辺にまで広く分布していることを示すものといえる。楕円銀河外縁部における惑星状星雲の分布と古い世代の恒星の関連を初めて明らかにした成果だ。

惑星状星雲の分布
(左)観測された惑星状星雲の分布。青の丸と赤のクロスは、それぞれすばる望遠鏡とウィリアム・ハーシェル望遠鏡を使って観測された惑星状星雲を示す。背景はDSSの画像。(右)Suprime-Camの画像のうち、観測領域の一部を示したもの(提供:J. Hartke (ESO))

これらの星が多い周縁部の光は、M105全体の明るさのたった4%だが、その広がりは銀河間空間と呼べる領域に達しており、ダークマターの作用を検証する上で格好の材料と言える。研究チームは、今後広範囲に分布する惑星状星雲の運動を測定して、ダークマターの分布に応じて重力がどのように変化するかを計算することで、たとえば、ダークマターが1つの大きな塊としてか、あるいは複数の小さな塊として存在するのかということまで区別できるだろうと期待している。

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