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背番号物語

【背番号物語】日本ハム「#86」ラジオ局の壮行会で決まった? たった1人の背番号は“東京”日本ハムの面影

 

唯一の永久欠番は「100」だが


日本ハムの監督として背番号「86」を着けた大沢監督


 この21世紀、日本ハムといえば北海道というイメージが完全に定着した気がする。20世紀には東京に本拠地を置いていて、東京ドームで巨人と“同居”していたのも遠い昔のようだ。日本ハムは戦後、いち早く復活の号砲を打ち鳴らした1945年の東西対抗から参加したセネタースが起源。1リーグ時代に東急、大映との合併で急映、ふたたび東急に戻って2リーグ制へ突入し、54年からは東映となって62年に初優勝、日本一に。日拓の1年を挟んで日本ハムとなり、愛称もフライヤーズからファイターズに改めている。

 背番号では独特の世界観(?)を構築しているチームで、プロ野球では80年代の中盤から「0」「00」が普及、それに日本ハムも追従した時期があったが、北海道へ移転してからの初優勝、日本一を飾った前後から段階的に消滅して、その後、2009年にチームで初めて永久欠番となったのが「100」。これはフライヤーズ時代から由緒ある(?)“オーナー専用”の背番号で、最初に着けたのは62年の日本一イヤー、東映の大川博オーナーだった。のちに東映カラーの払拭が図られた日本ハムでも大社義規オーナーが“継承”、その殿堂入りがチーム初の永久欠番が制定される契機となった。名物オーナーとしても球史に名を残す両オーナーだが、もちろん、ともに実戦の経験はなく、選手や監督の背番号とは趣が異なるものだ。

81年、後期優勝を果たして胴上げされる大社オーナー


 一方で、永久欠番として公言されてはいないものの、“沈黙の永久欠番”ともいえる背番号が日本ハムにはある。それは、沈黙どころか誰よりも雄弁だった日本ハム、いやパ・リーグの功労者が背負った「86」。“親分”大沢啓二監督の背番号だ。

 監督としての活躍に上書きされているが、選手としてもパ・リーグひと筋だった。神奈川商工高から立大を経て56年に南海(現在のソフトバンク)へ。この当時、“親分”といえば南海を率いていた山本(鶴岡)一人監督で、その山本監督から誘われたことを意気に感じて“子分”入り。アマチュア時代から逸話に事欠かない大沢だが、山本監督は大沢とともに立大で後輩だった長嶋茂雄杉浦忠も勧誘。2人には南海から栄養費の名目で卒業まで小遣いが渡されて、杉浦は南海へ入団したが、長嶋が一転、巨人へ入団したことで、約束を反故にした長嶋を大沢が「裏切り者」と敵視した時期もあった。

 大沢が南海で着けていたのは「15」。強肩の外野手として黄金期を支えたが、当時は10年目の選手にボーナスが出される“10年選手”という資格があり、その寸前の64年オフに引退を勧告されたことで南海を見限って、東京(現在のロッテ)へ移籍した。東京では「26」を着けたが、1年で引退。これが大沢を指導者の道へと導いた。「40」「57」でコーチ、「52」で二軍監督を務め、そのままロッテで監督を経験。解説者を挟み、日本ハムの監督として招聘されたのは76年のことだった。

「日本ハムの監督なんだから」


 冗談のような、ふとした発言が歴史を動かすことがある。大沢と「86」の邂逅も、ひと言がキッカケだったという。日本ハム監督に就任することが決まったとき、解説者を務めていたラジオ局で関係者が壮行会を開いてくれて、そこで島碩弥アナウンサーが「日本ハムの監督なんだから、背番号はハムで86番がいいよ」と提案。大沢は日本ハムの初代「86」となった。大沢監督はトレードやコーチ陣の入れ替えなどチーム改革を断行して、81年には日本ハムとなって初めてのリーグ優勝に導く。83年オフに勇退してフロントに転じたが、自らが推薦した植村義信監督が翌84年シーズン途中に辞任したことで復帰、閉幕まで采配を振るった。

 そして時は流れ、61歳となった93年。大沢は85年から欠番となっていた「86」を背負い、日本ハムの監督に復帰する。当時は西武の黄金時代。第1期をしのぐ舌戦を西武に仕掛けるなどで話題を集め、異名の“親分”は流行語に。日本ハムも快進撃の2位。大沢監督にはパ・リーグ功労賞が贈られている。日本ハムは翌94年に最下位に沈み、大沢監督も退任したが、本拠地の東京ドームでの最終戦ではファンに土下座。これが日本ハムの「86」が演じた最後のパフォーマンスだった。

 その翌95年に欠番となった「86」。この2021年も、その状態は続いている。もちろん日本ハムの「86」を背負ったのは大沢だけだ。北の大地に根を下ろし、新たな花を咲かせた日本ハムだが、「86」の系譜に続く空白は、“東京”日本ハムを輝かせた男の面影を雄弁に物語っている。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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