瀬戸内の風景が主役—安藤建築から見る直島の魅力とは【直島アート便り】

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大阪出身の建築家・安藤忠雄氏はこれまで直島で数多くの建築を手掛けてきました。安藤氏の建築は、周囲の自然や環境と調和する形で、瀬戸内海を臨む丘の上や海辺、集落の中など島内のさまざまな場所で展開しています。
今回は、安藤氏が直島でこれまでに手掛けてきた建築物を切り口に、直島の楽しみ方をご紹介します。

この記事のポイント

直島と安藤建築のこれまで

安藤氏と直島のアートプロジェクトとの関わりは、1988年に遡ります。ベネッセホールディングス(当時:福武書店)が1988年から「人と文化を育てる」をテーマに取り組んできた「直島文化村構想」の一環として、1989年にオープンした「直島国際キャンプ場」の監修を担当したことが始まりでした。

直島国際キャンプ場

瀬戸内の景観や昔から残る集落の風景の中で、安藤氏は2013年までに直島で8つの建築を手掛けています。

1992年に開館した「ベネッセハウス ミュージアム」は、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに美術館とホテルが一体となった施設として設計されました。美術館の建設にあたっては、瀬戸内海国立公園に指定されている直島の南側、自然が残るエリアを舞台に、美しい瀬戸内海の景観を生かす方針が立てられ、安藤氏は周囲の地形に溶け込むよう建物の半分を地下に埋め、建物に大きな開口部を設けることで周囲の自然を内部へ導きいれる構造を実現しました。

ベネッセハウス 写真:山本糾

その後、宿泊に特化した施設として1995年に「ベネッセハウス オーバル」、2006年に「ベネッセハウス パーク、ビーチ」が加わり、ベネッセハウス4棟はすべて安藤氏が設計を手掛けています。

「ベネッセハウス ミュージアム」で採用された瀬戸内の風景を主役においた建築の在り方は、その後他の美術館でも見られるようになります。
2004年に開館した「地中美術館」は、瀬戸内の美しい景観を損なわないよう、建物のほとんどが小高い丘の中に埋められています。

写真:大沢誠一

2010年には、アーティスト・李禹煥氏とのコラボレーションによって「李禹煥美術館」を手掛けました。海と山に囲まれたなだらかな谷あいに、ひっそりと佇むように位置する同美術館は、谷間から海へと繋がる地形や自然と調和する空間を作り出しています。

李禹煥美術館 写真:山本糾

安藤氏は、人々が生活を営む集落でも建築の設計に携わっています。

直島・本村地区に点在していた空き家を改修し、人々の記憶や歴史を織り込みながらアーティストが空間そのものを作品として再生する「家プロジェクト」では、1999年に「南寺」の建物を設計しました。「南寺」の建設地は、社寺が集中する精神的な場所であり、また古くから残る日本家屋に囲まれたエリアでした。安藤氏はその場所性を強く意識し、木造を採用しました。

家プロジェクト「南寺」 安藤忠雄(設計) 写真:鈴木研一

2013年には、本村地区にある築約100年の民家を改修し、「ANDO MUSEUM」を手掛けました。外観は周囲の家々と同様に木造民家の姿をとどめながら、内部にはコンクリートによる構造体が挿入されており、建築空間そのものを鑑賞できるつくりとなっています。

ANDO MUSEUM 写真:山本糾

ANDO MUSEUM 写真:浅田美浩

安藤氏は建物が置かれる場所の歴史や背景、環境を読み解き、その場所ならではの魅力や価値が存分に発揮されるよう建築を設計してきました。直島に展開する安藤建築は、それぞれの場所で主役としてとらえられた直島の豊かな自然や、昔から残る暮らしの風景に目を向けるきっかけを与えてくれます。

春ならではの魅力—「桜の迷宮」

安藤氏が直島で手掛けたのは、建築物だけではありません。

直島を舞台にこれまで美術館やホテルを手掛けてきた安藤氏は、工業化によって緑が失われた瀬戸内の島々の姿を前に「破壊された瀬戸内海の自然環境を、緑豊かなふるさとに再生して次の世代に残したい」という思いを込めて、2000年に「瀬戸内オリーブ基金」を設立しました。

「瀬戸内オリーブ基金」は、有害産業廃棄物の不法投棄事件「豊島事件」をきっかけに、安藤氏と、当時豊島事件の弁護団長であった中坊公平氏が呼びかけ人となって設立したNPO法人です。
安藤氏は、活動の一環として、瀬戸内の島々に残るはげ山に苗木を植える活動を続けています。

直島でも、島の南側に位置する倉浦地区に桜並木をつくるなど、植樹の取り組みを推進してきました。
そして2016年、これまでの緑化活動の一つの象徴として、また「瀬戸内オリーブ基金」の設立15周年を記念して、安藤氏監修のもと直島に「桜の迷宮」がつくられました。

「桜の迷宮」は、直島ダム公園エリアに、200本の桜を植えるプロジェクトです。当時、安藤氏は「今はまだ若木ですが、しっかり育てていけば、5年もすれば立派な森へと成長します」と語っていました。

桜の木が植えられてから6年が経とうとしている今、時間とともに木々たちも成長し、当時の安藤氏が思い描いていた桜の森を見ることができるかもしれません。

自然とともにある建築空間

直島の安藤建築は、建物そのものが周囲の地形や集落の風景と一体化していたり、建物の内と外の境界が曖昧な構造になっていたり、周囲の環境と切り離せない関係性の中で成立しています。
また、それぞれの建築には屋外に開かれた開口部や自然光を取り込むスリットなど、外の自然を内部へ取り込む工夫が施されているため、季節や天候、時間帯の変化に伴い、建物から見る外の風景だけでなく、建物に差し込む光の量や風、自然の音など、建物の中にいても建築そのものの見え方が刻一刻と変わっていくのも特徴的です。自然とともにある空間は、一つとして同じ瞬間を映すことはありません。安藤氏が手掛けた空間を通して、直島や瀬戸内海に広がる、その瞬間だけの景色を見つけてみてはいかがでしょうか。

次回の【直島アート便り】では、今年の春、直島に新たにオープンした安藤氏による9つ目の建築「ヴァレーギャラリー」をご紹介します。

谷あいに佇む李禹煥美術館

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
https://benesse-artsite.jp/

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