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在宅勤務で増えるベランダ喫煙に「ほんまやめて」と怒りの声…法的には?
画像はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

在宅勤務で増えるベランダ喫煙に「ほんまやめて」と怒りの声…法的には?

真冬の寒さが厳しくなっているが、それでもマンションのベランダでたばこを吸っている人は少なくない。新型コロナウイルス感染拡大を受けて、在宅ワークが広がったことも影響してそうだ。

さらに、ふたたび発令された緊急事態宣言によって、この動きは加速するかもしれない。

そもそもベランダでたばこを吸うのは、ほとんどが自宅内に煙を入れないためだが、においは近隣に広がっていく。洗濯物に移って、臭くなることもあるだろうし、受動喫煙のおそれもあるかもしれない。

ツイッター上では「ほんまやめてほしい」という声も多数あがっている。はたして、ベランダで喫煙することは法的に問題ないのだろうか。マンションのトラブルにくわしい瀬戸仲男弁護士に聞いた。

●原則として、ベランダは「自由」に使うことができる

――マンションのベランダで喫煙してもよいのでしょうか?

まず、分譲マンション(区分所有マンション)について考えます。区分所有のマンションには「建物の区分所有等に関する法津」(区分所有法)が適用されます。

マンションのベランダ(バルコニー)は「共用部分」と言われるものですが、この共用部分について「各共有者は共用部分をその用法に従って使用することができる」ことになっています(区分所有法13条)。

そして、ベランダについては「専用使用権」が設定されていることが多いので(マンション標準管理規約14条1項)、原則として、専用使用権者が自由に使うことができます。つまり、喫煙してもよいということです。

ベランダでの喫煙禁止(火器禁止)を定める場合には、管理組合の総会において、規約または使用細則を設定したり、変更したりして、明確に規定する必要があります。

●民法の「不法行為」にあたる可能性がある

――もしも、規約などで、喫煙が禁止されていない場合はどうすればよいのでしょうか?

区分所有法6条第1項には「区分所有者は建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と定められています。

仮に、問題の喫煙者の行為が、この「共同の利益」に反するほどにひどい場合には、区分所有法57条(行為停止請求)、58条(専有部分使用禁止請求)、59条(専有部分競売請求)の規定によって、対処することも可能かもしれません。

しかし、迷惑している人が特定の一部の人に限られる場合には、この手段は使えません。

したがって、一般法である民法を使うことになります。民法709条、710条の不法行為の規定により、喫煙者に対して損害賠償請求することになります。

――ベランダでたばこを吸う隣人に「やめて」と求めることはできるのでしょうか?

喫煙の行為そのものは、「個人の自由」(憲法13条)ですので止められません。被害者に損害が生じているとすれば、金銭的な損害賠償を請求することになります。これによって、他人に迷惑をかけるような形態での喫煙行為の自粛が促されることが期待されます。

●慰謝料5万円の支払いを認めた裁判例がある

――過去の裁判例はありますか?

今回のようなマンションのベランダでの喫煙行為に関しては、平成24年12月13日、名古屋地裁で判決がありました。事案の概要は次のとおりです。

マンションに居住している女性(当時74歳)の階下に居住している男性(当時61歳)がベランダで喫煙していました。これによって、女性は体調を崩してしまいました。

そこで、女性は、男性に対して150万円の支払いを求めて提訴しました。

この訴訟について、名古屋地裁は、近隣住民に配慮しない喫煙行為は「違法」な行為であると判断し、慰謝料(精神的損害に対する賠償)として、5万円の支払いを認める判決を言渡しました。

わずか5万円ですが、責任があることを認めたものであり、画期的な判決だと評価されています。

なお、このケースでは、女性に喘息の持病があり、たばこの煙によるストレスで帯状疱疹を発症した事実、および、女性から男性に対して、手紙や電話で何回も喫煙中止を申し入れたが拒絶された事実などが認定されて、男性の責任を認める判決に至ったと理解されています。その意味では、多少、特殊な事案であるということになりそうです。

―― 一般的にはどのように対処すればよいでしょうか?

喫煙者にとって、たばこの臭いは気にならないかもしれませんが、嫌煙者にとっては大変イヤなものです。ベランダに干しておいた洗濯物にたばこの臭いが着いたり、煙ではなくても上階から灰や吸い殻が落ちてきたりしたら、大いに困惑し、立腹するでしょう。あるいは、火の着いたままのたばこを落として、下にいる人に火傷を負わせたり、火事にでもなったりしたら、5万円では済まされません。

根本的には、管理組合の総会で議題として取り上げて、規約などに盛り込むべきです。マンションのことにくわしい弁護士やマンション管理士などに相談してみてください。

●賃貸マンションも同じように

――賃貸マンションの場合はどうなるのでしょうか?

賃貸マンションの場合、区分所有法は適用外です。喫煙者に対して、たばこを控えるよう直接申し入れてもいいですが、トラブルになるのを避けたい場合には、賃貸人(大家)や管理会社に伝えて、喫煙者に対してたばこを自粛するよう指導してもらいましょう。

喫煙者がたばこをやめない場合には、分譲マンションの場合と同じように民法709条、710条の不法行為によって損害賠償請求することができます。

請求の相手方は、基本的には喫煙者ですが、仮に、賃貸人(家主)や管理会社がまったく動かないようなら、事情によっては、これらに対する請求も考えてみましょう。

なお、健康増進法(受動喫煙防止法25条など)によって「望まない受動喫煙」を防止するための規定が設けられています。しかし、マンションは対象外であるとされていますので、同法によって直接的に判断され解決されるものではありません。

ただし、健康増進法(受動喫煙防止法)の対象となる施設で喫煙する際には、望まない受動喫煙を生じさせることがないように周囲の状況に配慮すべきことが定められましたので、今後、裁判所は、対象外のマンションでの受動喫煙を防止する方向で判断することが予想されます。

プロフィール

瀬戸 仲男
瀬戸 仲男(せと なかお)弁護士 アルティ法律事務所
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。

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