ヤマハ「SR400」は本当に名車だったのか? ~2輪系ライター中村トモヒコの、旧車好き目線で~ Vol.2

ヤマハのロングセラーモデル「SR400」は、2021年型でこれまで43年にわたって続けてきた生産を終了しました。最終型には人気が集まり、新車価格以上の販売価格を掲げる販売店もあります。そんなSRが持つ魅力を、中村友彦さんが考察します。

ふたつの印象深い出来事

 オーナーが読んだら気を悪くしそうなタイトルをつけてしまいましたが、1978年から43年に渡って生産が続き、多くのライダーから愛されたヤマハ「SR400」「SR500」(以下、SR)は、間違いなく歴史に残る名車です。このモデルが存在しなかったら、少なくとも1980年代以降の日本のバイクシーンは、いまひとつ面白味に欠ける状況になっていたでしょう。

SRは空冷単気筒エンジンを搭載し、エンジン始動はキックスターター式など、1978年の登場以来、大きく姿を変えることなく43年にわたり生産され続けた。写真は「SR400 Final Edition」(2021年型)

 なお、「SR400」のファイナルエディションおよびファイナルエディションリミテッドは、2021年1月の発表と同時に注文が殺到し、現在は新車価格の倍以上のプライスタグを掲げる販売店が存在するようです。

 そんなSRに関して、私(筆者:中村友彦)が印象深い出来事としてよく覚えているのは、かつての業界に否定的な意見を述べる先輩ベテランライダーが少なからず存在したこと、そして年齢を重ねることで自分自身の考え方が変化したことです。

 1970年生まれの私は、2輪免許を取得する前からSRに好感を抱いていましたが、レーサーレプリカブームの渦中だった1980年代後半、さすがにSRでは友人知人の乗る4スト4気筒や2ストVツインについていけないだろうと考え、初の中型車にはヤマハのビッグシングルスポーツ「SRX-4」を選びました。

パンチと軽さは、XT500に及ばない

 まずは否定的な意見の話ですが、かつての業界でSRを嫌っていたベテランの多くは、一方でSRの先祖に当たるトレールバイク「XT500」には好意的でした。

1978年に登場した初代「SR400」「SR500」は、「XT500」のオンロード仕様として開発された。最高出力が29.5psだったXTに対して、「SR400」は27ps、「SR500」は32psという数値を公表

 具体的な話をするなら、基本設計の多くを共有するモデルでも、エンジンのパンチとハンドリングの軽さは「XT500」のほうが格段に上で、それを知っていると、SRはすべての挙動がモッサリしていて物足りなく感じてしまう、と……。

 ちなみにSRが登場した1978年はそういうライダーが多かったようで、専門誌に掲載されたインプレでは、期待ハズレの気配を匂わせる記述をよく見かけました。

 そして私が1995年に2輪メディアの仕事を始めて数年後、SRの初期型と「XT500」の比較試乗を体験したところ、これは確かに、先輩方の言葉には一理があると思いました。端的に言うなら、「XT500」の乗り味はワイルドにしてアグレッシブ(ただし1970年代前半以前に生まれたビッグシングル、BSAの「B44」「B50」系やドゥカティ450などと比較すれば、フレンドリーだったと思います)、穏やかで牧歌的なSRとは完全な別物だったのです。

ヤマハ初の4ストロークビッグシングルとなった「XT500」(1976年)は、1979年から1980年に開催された第1回パリダカールラリーで1位から4位を独占。初代の乾燥重量は「SR500」より20kgほど軽い138kg

 もっともそんな体験しても、私の場合はSRに対して否定的な気分になりませんでした。「XT500」と比較すれば、SRに牙を抜かれた感があるのは事実ですが、当時の私は仕事を通して、カスタムによってSRが「XT500」に匹敵する、いや、場合によってはそれ以上のパンチと軽さを獲得できることを知っていたので、ノーマルに異論を述べるのは野暮だと思ったのです。

 でも現実的な話をするなら、まだ20代だった私のSRに対する印象は、“ノーマルはあくまでも素材で、やっぱこのバイクはいじってナンボ”で、以後の十数年間もそれは同様でした。

ノーマルはノーマルで、全然アリ

 続いては私自身の変化の話です。確か気化器がキャブレターからインジェクションに変更されて数年後、2012年から2013年頃だと思うのですが、久しぶりにSRをじっくり乗り込んだ私は、“ノーマルはノーマルで、全然アリじゃないか?”という気持ちになったのです。“いじってナンボ”から考え方がガラリと変化した理由は、40代になった私が、若い頃ほど刺激を求めなくなったからでしょう。

年を経るごとに厳しくなる排出ガス規制に対応するため、「SR400」(写真)は2009年から電子制御式フューエルインジェクションを採用。そして2021年には43年に及んだ歴史に幕を閉じることになった

 いずれにしても、歳を重ねることで同じバイクに対する印象が変わったのは、私にとっては初めてのことで、その経験は以後のインプレ仕事に役立っています。

 そして紆余曲折を経て、ノーマル肯定派になった私は、SRは穏やかで優しくて牧歌的な特性だったからこそ、超ロングセラーになれたんじゃないか……とも感じました。逆に言うなら、「XT500」のワイルドさやアグレッシブさを維持していたら、多くのライダーから支持を集めることはできず、SRはもっと早い段階で姿を消していたのではないでしょうか。もっともこのあたりは、マニアにとっては“何を今さら”の話かもしれませんが、今になって考えると、歴史に残る名車と呼ばれているSRは、私のバイク観に多大な影響を及ぼしたような気がしています。

【了】

【画像】ヤマハ「SR400」の背景にあるバイクを見る(8枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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