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平成元年に新卒女子が直面した男性社会の壁、女性活躍30年後も道半ば

  • 女性でも責任ある仕事できる会社は「自分で作る」-藤沢久美氏
  • 幅広い世代の女性が働きやすい仕組み整えることが必要-日本総研

日経平均株価が史上最高値の3万8915円を付けた平成元年(1989年)、大阪の大学を卒業して金融の世界に飛び込んだ藤沢久美さんは、平成の30年間は働く女性にとって平たんな時代ではなかったと振り返る。

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藤沢久美さん

Photographer: Shoko Takayasu/Bloomberg

  時はバブル絶頂期で男女雇用機会均等法が既に施行されていたが、東京の大企業に連絡すると「女性は雇えない」と門前払いされた。「社会に出ても女性は活躍できないのか」と敗北感に見舞われかけたが、両親からは幼い頃から、ほしいものがなければ作ればいいと教えられて育った。「女性でも責任ある仕事ができる会社を自分で作ろう」との目標を立て、小規模な投資運用会社からスタートして国内外の複数の企業で経験を積み重ねた。

  営業先の担当者の多くが年上の男性で、まともに話を聞いてもらえないこともあった。90年代半ばには投資信託評価会社「アイフィス」を起業。99年に同社をスタンダード・アンド・プアーズに売却し、現在はシンクタンク・ソフィアバンクの代表を務め、政府関係の審議会委員や複数の企業で社外取締役も掛け持ちする。

  藤沢さんは自らが社会に出た平成初期と比べて公の場での差別的な発言は少なくなり、「今の方が女性が働くことにウエルカムになった」。ただ、女性役員など指導的立場にいる女性の数を見ると、多くの日本人の心の中は「あまり変わっていない」と感じている。

男女間にはなお賃金格差

女性の平均賃金は男性の7割

出所:厚生労働省 

  安倍晋三政権は女性活躍を掲げ、2020年に女性管理職の割合を30%にすることを目標にしている。上場企業の女性役員数は12年からの6年間で約2.7倍増加したものの、割合は4.1%と低水準が続いている。賃金も女性は男性の73.4%(17年)にとどまる。89年に男性の60.2%だったことを考えると、長期的にはその差が縮小傾向にあるが、格差解消には程遠い。世界経済フォーラムが発表した18年のジェンダーギャップ(男女格差)ランキングで日本は149カ国中110位、昨年より4つ順位を上げたが、先進7カ国(G7)では最下位だった。

一歩引いた立場

  平成最後の春、大学を卒業した福本真理奈さんは就職活動中、不動産会社の最終面接で、男性と同等に働く姿勢をアピールしたが、男性役員が並ぶ面接官の反応から「男性を差し置いて自分が、という強さではなく、男性よりも一歩引いた立場にいてほしい」という空気を感じ取った。

  最終的に損害保険会社への入社を決めた。全国転勤がなく出身地の東京エリアで勤務する職種で、結婚や出産後も働きやすい環境を選んだが、全国型よりも給与水準は低い。将来、1人で子どもを育てる場合も想定し、仕事は「絶対に続けたい」と話す。「年金はもらえないと思っていた方がいい、年金に頼らず生きていこうと思っている」と仕事に慣れた頃には、資産運用の勉強も始める予定だ。

Keio University Student Marina Fukumoto

福本真理奈さん

  子育てしやすい環境を選んだ新卒女性もいる。慶田城さやかさんは日系のコンサルティング会社への就職も検討したが、長時間労働を強いられる職場で子どもがいる女性はいなかった。将来は家庭を築き、子どもを育てたいと考えており、従業員の半数以上が女性でワーキングマザーもたくさんいる東京のITベンチャー企業への就職を決めた。

  出産・育児期に差し掛かった30歳代で女性の就業率が落ち込むM字カーブは平成初期と比べ、緩やかになったが、内閣府が2016年に行った調査では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」との考え方への「賛成」が4割に達するなど、日本社会では女性の役割は家事や子育てとする価値観もいまだ根強い。

女性就業率「M字カーブ」は緩やかに

30-40代の離職は改善傾向

出所:総務省


  日本総研創発戦略センターのスペシャリスト、小島明子氏は、女性の労働環境の変化について「仕事は続けられるようになったが、責任あるポジションで活躍できているかというとまだ課題がある」と指摘する。活躍し続けている女性が少なく、「多様なロールモデル」がないことで、若い世代が自身の将来をイメージできない状況も続く。
  
  小島氏は女性活躍の視点で平成の時代を顧みると「道半ば」との認識を示す。今後、幅広い世代の女性が働きやすい環境にするためには、中途採用や再雇用など柔軟に受け入れる仕組みを整えることが必要で、企業側に「若い人を重点的に採用し、教育するというスタイル」からの転換を求めている。30年後、福本さんや慶田城さんは新元号の時代をどのように振り返っているだろうか。

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