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景気対策の主役は黒田日銀から財政へ、副作用で上がる緩和のハードル

  • 副作用で大規模金融緩和策は財政政策のサポート役に変貌中
  • 低金利の長期化で金融政策の限界認識は先進国共通の現象に

日本銀行の黒田東彦総裁が追加金融緩和に「前向き」と発言してから1週間後の9月26日、日銀本店で開かれた日銀幹部と信用金庫業界トップの意見交換会は、例年よりも重苦しい雰囲気に包まれた。日銀が10月の金融政策決定会合でマイナス金利の深掘りを軸とした追加緩和に踏み切るとの見方が市場で広がっていたためだ。

  複数の出席者によると、会合で信金業界からは、むしろマイナス金利政策の早期解除や金融政策の正常化を求める声が相次いだ。これに対し日銀幹部は、海外経済の下振れリスクの高まりを背景に必要となれば追加緩和もあり得るとの見解を表明する一方、超低金利政策の長期化に伴う副作用の拡大にも留意しているとの考えを示したという。

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黒田東彦日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  長引く低金利で金融機関の預貸金利ざやは縮小の一途をたどり、年金・保険などの運用難も深刻さを増している。日銀は追加緩和に前向きな姿勢を維持し続けているが、こうした金融システムに対する副作用の拡大が、実際の追加緩和判断のハードルを高めていることは間違いない。

  安倍晋三政権の経済政策であるアベノミクスを主導した黒田日銀による大規模な金融緩和政策は、副作用の拡大とともにその役割が財政政策のサポートに変貌しつつある。黒田総裁も最近の講演や会見で、短中期金利の引き下げを中心に金融緩和に限界はないと強気の姿勢を維持する一方、財政政策との協調について踏み込んだ発言も目立つ。

  総裁は11月5日の名古屋市での記者会見で、財政との協調を問われ、「仮に政府が必要に応じて財政政策をさらに活用するということになれば、当然のことだが、財政・金融のポリシーミックスという形で、より一層、財政政策あるいは金融政策が単独で行われる場合よりも効果が高まる」との見解を示した。

先進国共通の現象

  金融政策から財政政策への振り子の振れは、総じて低金利が長期化している中で、金融政策の限界が意識されている先進国共通の現象ともいえる。日銀が2016年1月、マイナス金利政策の電撃的な導入で市場に衝撃を与えた影響力は影を潜めつつある。

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浜田宏一氏

Photographer: Yuriko Nakao/Bloomberg

  「アベノミクスが始まった当初は、私が財政政策の重要性について話すことになろうとは思ってもいなかった」。安倍首相の経済ブレーンで、積極的な金融緩和の必要性を主張していた浜田宏一内閣官房参与はこう語り、「金融政策はアベノミクスが始まった直後は非常に効果があったが、現段階では金融政策のみで大きな効果を出すことは難しくなっている」と指摘する。

  安倍首相は8日の閣議で、台風19号など相次ぐ自然災害からの復旧・復興や海外経済のリスクなどを踏まえ、経済対策の策定と2019年度補正予算の編成を指示した。自民党の甘利明税制調査会長は13日に配信した自身のメールマガジンで、経済対策は6兆円を上回る規模が必要とし、補正予算を東京五輪の景気とつなげ、五輪後を「宴(うたげ)の後」にしてしまわない工夫が必要と主張した。

  14日発表の7-9月期の実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率0.2%増と4四半期連続でプラス成長を確保したが、10月からの消費税率引き上げ前の駆け込み需要にも関わらず力強さに欠けた。米中貿易摩擦の帰すうを中心に世界経済の不透明な状況が続く中、消費増税後の個人消費動向など景気の先行きは予断を許さない。頼みの内需が失速すれば、日銀が目指す2%の物価目標の実現は一段と遠のく。

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日銀本店

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

低金利活用の財政出動

  政府が経済対策に踏み切るのは、英国の欧州連合(EU)離脱問題や新興国を中心とした世界経済の減速に対応した16年度以来。日銀は同年7月の決定会合で上場投資信託(ETF)の保有残高が年間約6兆円増と従来から倍増するように買い入れを増やす追加緩和を決めた上で、政府が策定中の経済対策に言及し、金融緩和の推進により「極めて緩和的な金融環境を整えていくことは、こうした政府の取り組みと相乗的な効果を発揮する」と声明に明記。財政との連携を演出した。

  19年度補正予算と20年度当初予算の編成作業は12月にかけて本格化し、日銀が18、19日に開く次回の金融政策決定会合までには全容が明らかになる可能性が大きい。

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門間一夫氏

Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg

  金融緩和の副作用の拡大とともに、政治の世界から一段の金融緩和を促す声は聞こえてこないが、国土強靭化対策を中心に現在の低金利を活用した財政出動が必要との指摘は根強い。日銀前理事の門間一夫みずほ総合研究所エグゼグティブエコノミストは「次の景気後退局面では財政政策が先頭に立ってやっていかなければならないというのは、日銀で広く共有されている見方だろう」と語る。

英語記事 End of Line for BOJ Leaves Kuroda Talking Up Fiscal Firepower はこちらをご覧下さい

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