パウエルFRB議長のタカ派姿勢、政府・日銀に再び円安警戒迫る
伊藤純夫-
パウエル発言受けドル・円は1カ月半ぶりの139円台まで円安進行
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日米金融政策格差が一段と鮮明に、早晩に140円突破トライとの声も
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が先週末の米カンザスシティー連銀主催のジャクソンホール(ワイオミング州)会合でインフレ抑制への厳格な姿勢を示したことで、政府と日本銀行は再び円安への警戒を迫られる状況となっている。
パウエル議長は同会合での講演で「物価の安定を回復するには、景気抑制的な政策スタンスを一定期間維持することが必要となる可能性が高い」と発言した。9月の連邦公開市場委員会(FOMC)では「異例に大幅な」利上げをもう一度実施することが適切となる可能性があるとも語った。
パウエル氏のタカ派発言を受け、日米金利差が拡大・長期化するとの思惑が市場で再浮上し、29日の東京市場では約1カ月半ぶりの1ドル=139円台まで円安が進んでいる。市場のテーマが内外金利差から世界経済の減速懸念に移る中、ドル・円相場は過去1カ月程度、方向感の乏しい値動きが続いていた。
日銀の黒田東彦総裁はジャクソンホール会合で、賃金と物価が安定的かつ持続可能な形で上昇するまで、持続的な金融緩和を行う以外に選択肢はないと述べた。7月の金融政策決定会合後の会見では、「金利をちょこっと上げたらそれだけで円安が止まるとは到底考えられない」とし、止めるために大幅な利上げを行えば「経済にすごいダメージになる」と説明していた。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは29日付レポートで、9月の米FOMCと日銀会合で日米両国の金融政策のベクトル格差は一段と鮮明になる可能性が極めて高いと指摘。「早晩、ドル・円相場は24年ぶりとなる1ドル=140円00銭突破を試しに行くことになるだろう」とみている。
円安の進行は輸入物価の上昇につながり、消費税率引き上げの影響を除けば14年ぶりの高水準にある日本の消費者物価を一段と押し上げる要因となる。原材料や食料品を中心としたコストの上昇を通じて日本経済を圧迫し、中小企業や家計の景気への懸念が強まる可能性がある。
大半のエコノミストも、来年4月に任期満了となる黒田総裁の下では日銀が金融緩和政策の修正に動くとは予想していない。ただ、日銀が一時的とみる消費者物価の上昇が長引く可能性が強まったり、企業の価格設定行動のさらなる積極化に伴って物価の基調的な動きが強まるなど、前提となる経済・物価の見通しが変化すれば、市場で再び政策調整の思惑が高まる可能性も否定できない。
一方、政府は9月上旬をめどに追加の物価高対策を取りまとめる予定だ。年末に向けた23年度の予算編成もにらみ、資源価格や円安の動向から目が離せない状況が続きそうだ。
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